1月19日、39歳の誕生日を迎えた宇多田ヒカル。8枚目の最新アルバム『BADモード』が2月23日のCD発売に先駆けて、デジタルで先行配信されている。

 1998年12月、1枚のCDが発売された。それまでの日本の歌謡曲にはないクールな曲調と切なさをはらんだ歌詞と歌声。『Automatic』を歌っている宇多田ヒカルの存在は当初謎めいていたが、徐々に15歳であること、藤圭子の娘であることが伝わっていく。翌年3月に発売されたアルバムは、860万枚を超える大ヒットとなった。

 ブレーンとして宇多田ヒカルのデビューにかかわり、平井堅やCHEMISTRY、EXILE、JUJUなどのプロデュースでも知られる音楽プロデューサー、作詞家、作曲家の松尾潔氏が当時の鮮烈な思い出を明かした、「文藝春秋」2016年1月号の手記を再録する。

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2009年2月、第51回グラミー賞授賞式の関連パーティーに出席した宇多田ヒカル ©getty

(※年齢、日付などは掲載当時のまま)

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15歳とは思えない意識の高さ

『Automatic』の歌い出しは、「7回目のベルで」が「な、なかいめのべ、ルで」という独特の“字切り”になっています。このこなれていない、拙い感じは、プロとしては気になる。僕がディレクターなら修正しただろうと思いました。そこであるとき、少し皮肉を込めて彼女にそのことを聞いたんです。「この部分って、よく直されなかったね」。すると彼女は、すぐにこう言い返してきたんです。

「作曲家の権利があるだろう!」

 その生意気で、こまっしゃくれた回答、男の子っぽい言い回しに思わず笑ってしまいました。15歳とは思えない意識の高さもすごかった。やることなすこと、気が利いていて、誰もがその魅力に引き込まれていく。あの頃は、まるで宇多田ヒカルを中心に世界が回っているかのようでした。

デビューシングル『Automatic/time will tell』

藤圭子の娘であったからこそ

 僕が最初に彼女の歌声に触れたのは、デビューの数ヶ月前です。当時の東芝EMIのプロデューサーから「ちょっと聞いてみて」と渡されたのは、後に『Automatic』のカップリングとなる『time will tell』という曲でした。僕は、その曲を聞いた瞬間に驚きました。日本人の声なのに、R&B、黒人音楽、洋楽っぽい雰囲気を色濃く持っている。それまでも黒人っぽく歌うシンガーは、日本にもたくさんいました。でも彼女の歌から感じたのは、それを学んで身につけたのではなくネイティブとして生まれつき肉体に備わっているということでした。

「誰なんですか? 本当に日本人ですか? どんな顔をしているんですか?」

 たった1曲で僕は、彼女に魅了され、その後オフィシャルライター業務を中心としたブレーンのひとりとしてプロジェクトチームに参加することになりました。彼女がまだ15歳であること、そして藤圭子さんの娘であることは、あとから知らされ、ふたたび驚きました。