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小室哲哉は「ヒカルちゃんが僕を終わらせた」15歳のデビュー曲『Automatic』の“誕生秘話”〈宇多田ヒカル39歳に〉

2022/01/19

source : 文藝春秋 2016年1月号

genre : エンタメ, 芸能, 音楽

note

全世代的に受け入れられた、もうひとつの理由

 そしてさきほども言ったように黒人っぽいグルーブ(歌い回し)を持ち、同時に少女らしくみずみずしい歌声。よく比較された美空ひばりは、子どもらしからぬ声質と歌唱で人気になりましたが、あの頃の宇多田ヒカルには子どもらしい声と成熟した歌唱という対照的な要素を兼ね備えた魅力がありました。もうひとつ大ヒットの理由をあげるとするならば、彼女の歌は新しいだけではない“懐かしさ”も含んでいたということでしょう。だから有線で演歌のあとに流れても、まったく違和感がなかった。だからこそ全世代的に彼女の歌が受け入れられたのです。

活動再開後の2016年9月、8年半ぶりにリリースしたアルバム『Fantôme』

 ルックスもよかった。意志の強さを感じさせる美しい目を持っている。絶世の美女ではないかもしれませんが、リアリティ、親しみやすさを感じさせます。シンガーは女優ではないので、聞き手に近い、手が届きそうな感覚というのも大切だと思っています。

松尾潔氏

 僕は、すぐれたポップミュージックとは、失恋の歌でも悲しいバラードでも、聞いたあとに「明日からがんばろう」と思えるものだと考えています。歌で美しい心を表現し、生きることを肯定できるのは、誰もができることではありません。その才能を間違いなく彼女は持っていたし、いまももちろん持っているでしょう。天才の大噴火の瞬間に立ち会えたのは、素晴らしい体験でした。

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 この数年、寡作となっているのは残念ですが、最近は子どもも産んで、強い生命力を感じます。近々また復活して素晴らしい歌を届けてくれるでしょう。僕はそう信じています。

『Automatic』 作詞・Utada Hikaru/作曲・Utada Hikaru

(「文藝春秋」2016年1月号より)

小室哲哉は「ヒカルちゃんが僕を終わらせた」15歳のデビュー曲『Automatic』の“誕生秘話”〈宇多田ヒカル39歳に〉

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