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2022/01/19

source : 文藝春秋 2016年1月号

genre : エンタメ, 芸能, 音楽

 2年前、沢木耕太郎さんが書いた若き日の藤圭子さんのノンフィクション『流星ひとつ』を読んだら、おきゃんでイキイキとしていて、そして紛れもない天才だった藤さんが描かれていました。それは、まさにデビュー当時の宇多田ヒカルと重なります。彼女に圧倒的な才能があったのは言うまでもありません。でもあそこまで大ヒットしたのは、彼女が藤圭子の娘だったからという理由もあるでしょう。芸能界において、血は大きなファクターです。彼女は戦後有数の大スター、藤圭子の娘であったからこそ、“日本国民の娘”になりえたのです。

860万枚を売り上げた1stアルバム『First Love』

小室哲哉さんは「ヒカルちゃんが僕を終わらせた」

 最近、小室哲哉さんが「ヒカルちゃんが僕を終わらせた」と語っていました。これは彼女の才能に対する最大限の賞賛だと思います。彼女が登場した頃の日本の音楽界は小室さんや小林武史さんなどのプロデューサーが牽引し、大ヒットを飛ばしていました。でもそんな彼らですら、宇多田ヒカルの天才性、溜めこまれたマグマが爆発するような衝撃の前には、脇役に回らざるをえなかった。

 宇多田ヒカルは、作曲家としても作詞家としても、そしてシンガーとしても超ド級の才能でした。その曲は、洋楽的でありながら、マニア向けだけにおさまらない開かれた感じがありました。そして詞にはどこか日本的な切なさ、恋愛の普遍的な心情が描かれていた。彼女の書く詞は、あきらかにフィクションなのに一粒のリアリティがある。15歳らしさと、大人びた視線の両方を合わせ持っていました。たくさんの名作文学を読んできたということもその詞から伝わってきます。

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