2019年4月に発生した「池袋暴走事故」。逮捕が見送られ、世間で「上級国民」へのバッシングが加熱するなか、退院した飯塚幸三(受刑者)はハットにサングラス、マスクの完全防備で警察署に姿を現した。
世論の猛反発を恐れ、警察車両ではなくタクシーで移動させられる緊迫した状況。その陰で、父を支える長男は「トヨタの非を認める判決が出る可能性はゼロだ」と、車の異常を訴え続ける父親を説得しようと試みる。しかし……。
長年取材を続けてきたTBSテレビ守田哲氏の新刊『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』(文藝春秋)より一部抜粋してお届けする。(全3回の3回目/最初から読む)
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世論という見えない敵
飯塚の妻は怪我の症状が極めて重く、長期入院を強いられていた。事故の記憶は、車が何かにぶつかった「ガン」という衝撃音と、「とめて」「とめて」と叫んだという程度しかない。しかし、その声はドラレコ映像には記録されておらず、直前に通った道を「目白通り」と誤認し、事故の事実関係をそもそも理解していなかった。
妻は警視庁の事情聴取に対し、夫を食事に誘ったことの自責の念や、被害者への謝罪を述べた。
飯塚は妻より先に退院が決まり、退院直後に目白署での事情聴取が設定された。数回の聴取で終わるような生易しい事故ではなかった。世間の関心も日に日に高まっていた。
五月一八日の土曜日の朝、捜査の動向を察知していたテレビ局のカメラクルーが、飯塚が入院する国立国際医療研究センター病院の大久保通り側の歩道に張り込んだ。私の取材不足が原因で、そこにTBSはいなかった。いわゆる「抜かれ」である。
