住所はネットにさらされ、身に危険

 この日、飯塚はどこに向かったのか。長男と警視庁は、飯塚の退院後の生活について協議を行っていた。住所はネット上にさらされ、自宅に帰れば身に危険が及ぶ可能性があった。

新刊『池袋高齢者暴走事故 遺族と加害者家族の2060日』(文藝春秋)

 そこで、池袋のウィークリーマンションと目白署を往復する案が浮上した。これならマスコミの目を避けることができ、近隣住民に迷惑をかけることもない。しかし、長男が賃貸契約の際に入居者として飯塚幸三の実名を書いたところ、「急な工事」を理由に入居を拒否された。

 警視庁サイドは、外から出入りが見えないという条件で、警視庁本部庁舎での事情聴取や、ホテルへの滞在などを提案した。助け船を出してくれたのは、長男の友人だった。その友人は、目白署から車で五分ほどの高級ホテル「椿山荘」と交渉をまとめてくれた。幸いにしてホテル側の担当者らの理解もあり、何とか予約にこぎつけることができた。といっても、金銭的な余裕があったわけではなく、「椿山荘」しか選択肢がなかったのだ。

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 この事情聴取の日、長男は仕事のため同行できなかった。しかし、父親の付き添い人からの電話で目白署でのメディアスクラムを聞き、「このままだと父親がホテルに滞在することが露見する」と危惧した。

 そして、やむなくキャンセル料を払い、自宅に帰すという決断に踏み切った。あとから振り返れば、これは極めて重要な判断だった。

 まず、飯塚の姿が報じられたことで、「なぜこんな体で運転していたのか」と批判が沸騰した。そのうえ、高級ホテルに連泊して毎日タクシーで警察署に向かう姿が放送されたら、ますます炎上したことは想像に難くない。