完全防備の飯塚幸三

 眼前に現れた飯塚はハット、大きめのサングラス、マスクで完全防備していたため、表情は全く読み取れない。両手で杖をつき、摺り足のような仕草で歩いた。

 いや、前に進んだという表現の方が正確かもしれない。歩幅は極めて短く、よちよち歩きのような印象も受けた。

 玄関に設置されている簡易スロープの勾配はわずかだが、飯塚は体に負担がかかるのか、杖を持つ手が震えていた。カメラ助手が持つテレビ用の集音マイクが杖に当たりそうになる。

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 付き添いの捜査員が右手でガードし、左手で飯塚の手を支える。報道陣から容赦のない言葉の石礫が飛ぶ。

「事故について一言」「被害者の方に一言お願いします」。整列していたメディアの陣形が雪崩を打ったように、飯塚の前を塞ぐ。捜査員が「はい! 前空けて! 前空けて!」と叫ぶ。

「誠に申し訳ございません」

 飯塚の初の肉声は震え、消え入りそうだった。路肩に待機していたタクシーに辿り着くまで、十数メートルにわたって報道陣に囲まれ続けた。転倒してもおかしくなかったが、何とか耐えた。私はタクシーの後部ドアの横に先回りしてしゃがみ込んだ。

 飯塚が後部座席の助手席側に乗り込む瞬間、その足をデジカメで撮影しようと考えたのだ。レンズと飯塚の足の間は三〇センチメートルくらいだった。飯塚は震える足をゆっくり上げ、やっとの思いで乗り込み、車が出発した。事故のダメージによる衰えを差し引いたとしても、この足で本当に車を運転できたのか。強い疑問を抱いた。

 飯塚の行き先を確認するため、追走用のメディア各社のオートバイもエンジン音を上げた。