私は一連の動きを全く知らなかった。「事情聴取始まる」という他社の速報を見た上司から電話が入ったとき、私は子供の保育園の遠足に同行していたが、途中で妻子を置いて、目白署に急行した。最終的に記者やカメラマン約五〇人が狭い歩道に集結し、聴取終わりの飯塚を待ち構えた。

 飯塚は昼食としておにぎりを食べた。三時二八分、警察官の動きがあわただしくなる。正面玄関の自動ドアの内側に、捜査員に付き添われた飯塚がうっすらと見えた。私は自動ドアのすぐそばに陣取っていた。

完全防備の飯塚幸三

 眼前に現れた飯塚はハット、大きめのサングラス、マスクで完全防備していたため、表情は全く読み取れない。両手で杖をつき、摺り足のような仕草で歩いた。

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 いや、前に進んだという表現の方が正確かもしれない。歩幅は極めて短く、よちよち歩きのような印象も受けた。

 玄関に設置されている簡易スロープの勾配はわずかだが、飯塚は体に負担がかかるのか、杖を持つ手が震えていた。カメラ助手が持つテレビ用の集音マイクが杖に当たりそうになる。

 付き添いの捜査員が右手でガードし、左手で飯塚の手を支える。報道陣から容赦のない言葉の石礫が飛ぶ。

「事故について一言」「被害者の方に一言お願いします」。整列していたメディアの陣形が雪崩を打ったように、飯塚の前を塞ぐ。捜査員が「はい! 前空けて! 前空けて!」と叫ぶ。

「誠に申し訳ございません」