自説を曲げない父親
一方で、長男は父親がどのように振舞うべきか苦慮していた。頻繁に発生する弁護士との打ち合わせに同席し、警視庁との連絡役もつとめた。長男は、「自分の過失は、暴走を止めることができなかった」という自説を曲げない父親を何とか説得しようと考えていた。五月二八日、捜査員と電話で話した際に、切羽詰まり、より踏み込んだ提案をした。
「父親の主張が被害者に伝われば、とんでもないことになるのはわかっています。もっと詳しい事故の情報を教えてくれれば、父親を説得できるかもしれません」
しかし、捜査員は捜査情報の保秘を理由にその申し出を断り、「このままの状態であれば、裁判で争うことになります。情状酌量の余地もなくなります。別の同様の事故は有罪判決が出ていますから」と説明した。
捜査員の話を受け、長男は父親に電話をかけた。踏み間違いだと説得すると反論される可能性があると考え、出来るだけ父親の立場に立って諭した。
「仮に車に不具合があったと主張しても、国内産業の頂点に立つトヨタの非を認める判決が出る可能性は、限りなくゼロだよ。こちらに証拠がない状態じゃ、勝ち目はないよ」
三日後、弁護士も交えた打ち合わせが行われた。
父親に同じ話を繰り返したところ、弁護士は「日本の法曹界はそこまで腐っていないですよ」という趣旨の話をした。長男は無罪主張の変更は難しいと徐々に考えるようになっていった。