1979年6月、「鵜頭川村」で凄惨な事件が起きた。

 事の発端は、豪雨の中で一人の若者の死体が発見されたことだ。その直後、村で唯一の出入り口が土砂崩れで埋まってしまったことがわかり、約900人の村人たちは完全に孤立。疑心暗鬼と次に誰が殺されるかもわからない不安の中で、人々は徐々に追い詰められていく……。

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 最終的に死者32名、重軽傷者187名を出した鵜頭川村の「内乱事件」は、どのようにして起きたのか。コミック『鵜頭川村事件』は、6歳の娘を連れて東京から妻の墓参りにやってきて、不運にも村に閉じ込められてしまう岩森明の視点で、事件の一部始終を明らかにする作品である。

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30年続く村人同士の深い因縁

 鵜頭川村は、地元で事業を営む有力一族の「矢萩」と、その他多数の「降谷」で成り立つ村だ。両者の30年以上続く因縁は根深い。

矢萩が営む会社に勤める降谷の人々は、不満を溜めながらも逆らうことができない 『鵜頭川村事件』©文藝春秋

 今は大きな顔をしている矢萩だが、事業を始めたばかりの頃は降谷を含む他の村人嘲笑われていた過去がある。一方、矢萩が進める道路拡張工事に降谷は良い顔をせず、立ち退きを拒否しているものもいるという。土砂崩れで村が孤立したのも、工事のために木を切り倒してしまっていたからだ。

 村が極限状態に置かれたことで、矢萩と降谷の対立も激化していく。難しい立場に置かれたのは、岩森の義祖父である矢萩元市の息子の妻・有美だ。彼女はもともと降谷の人間で、周囲の反対を押し切って矢萩と結婚した。

もともと降谷の人間で、矢萩と結婚した有美の立場は危うい 『鵜頭川村事件』©文藝春秋

 孤立した村の中で矢萩からも降谷からも睨まれた有美の身は、今や常に危険と隣り合わせだった。

若者の蜂起…追い詰められた大人の行動は

 依然として救助は現れず、刻一刻と緊張感が高まっていく村で、これまで大人に虐げられてきた村の若者たちの鬱憤も爆発しようとしていた。若者グループのリーダー、降谷辰樹は「自警団」を結成し、身を守るために武器を取れと発破をかける。

 迫りくる刃を前に矢萩の大人たちは恐怖に身をすくませる。そんな中、思いつめた矢萩元市は有美を組み伏せ、諭すようにこう言うのである——。

「女は馬鹿で男は偉い……“力”が無ぇのが悪いんだ」

『鵜頭川村事件』©文藝春秋

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 コミック『鵜頭川村事件』上下巻では、有美の身に、そして村に何が起きたのか、事件の一部始終が描かれています。全国書店・主要電子書店で発売中です。

『鵜頭川村事件』の連載ページでは、1〜4話が無料で読めます。併せてお楽しみください。