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「男女のホテル代は割り勘にすべき?」バズった“論破シーン”がエンタメとして成立しているわけ

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『このマンガがすごい!2023』オンナ編では第10位に入賞。瀧波ユカリが令和の世に放つ『わたしたちは無痛恋愛がしたい』(講談社)は、「自分らしく生きたい女ほどクズに引っかかる法則」「ホテル代割り勘問題」などの“あるある”ネタで、SNSでもたびたび話題になっている。

『わたしたちは無痛恋愛がしたい』(瀧波ユカリ/講談社)第1巻

 主人公は、鍵をかけたSNS=鍵垢でしか本音を吐露できない23歳独身女性・みなみ。

 “星屑男子”(顔のいいクズ)に雑に扱われたり、街中で人にわざとぶつかられたり、「女」の役割を押し付けられたり……この世界って何なの? と思いながら、鍵垢に本音をツイートする彼女の前に一人の年上男性――“フェミおじさん”が現れる!

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分かりやすくモテる「キラキラ男子」の正体は…

「タイトルにもある“無痛恋愛”は、『21世紀の恋愛』(著:リーヴ・ストロームクヴィスト/訳:よこのなな)というスウェーデンの作家の本に出てくる言葉で、そこでは〈恋をするのも終わらせるのも女性自身が決める、自分で恋愛をコントロールすることによって得られる、痛みや苦しみのない恋愛〉という意味合いで使われています。

 瀧波ユカリさんはこのワードに衝撃を受けて、『では、今の日本の女性にとっての“無痛恋愛”とは、どういう恋愛なんだろう?』と考えるようになり、この作品が出来上がっていきました」(担当編集)

 連載スタート直後は読者の約9割が女性だったものの、徐々に男性読者も増えてきたという。作中でキーパーソンになっているのは、登場人物にも「いくら令和でも、そんなおじさんいるかなぁ?」と語られている、ジェンダー観のアップデートされた“フェミおじさん”だ。

©瀧波ユカリ/講談社

「特定のモデルはいないと聞いています。主人公・みなみが好意を抱いている男性キャラクター・千歳は、『顔がよくて』『コミュ力が高い』という、分かりやすくモテる人。でも彼の正体は、平然と複数人の女性と関係を持ち、根底には女性蔑視の価値観を持つクズ。一見キラキラしていることから、作中では“星屑(ほしくず)男子”と形容されています。

 そんな男性から離れられないみなみの心が揺れ動くとしたら、どんな人が現れた時だろう……というところから、“フェミおじさん”のキャラクターは肉付けられていったそうです」(同前)

自分の中にある何かを語りたくなる漫画

「令和のコミュニケーション&フェミニズム漫画」と銘打たれているが、『臨死!! 江古田ちゃん』『モトカレマニア』などを描いてきた瀧波ユカリだけに、実社会での人間観察や関係性の妙を見事にエンターテイメントに昇華させている。

「『ホテル代割り勘問題』について、みなみが相手男性を“論破”するシーンは、SNSでとても大きな反響がありました。みなみの主張に賛同する人、しない人、さまざまな立場から熱量ある声が流れてきて、『自分の中にある何かを語りたくなる』漫画なのだと思いました。

©瀧波ユカリ/講談社

 個人的には、みなみの女友達のうずらちゃんというキャラクターが、ワンオペ育児に疲れ果て追い詰められていく、でも友達には相談できない……という場面の描き方がリアルで印象に残っています。実際に苦しんでいる知人の顔が浮かび、ネームを読みながら泣いてしまいました。

 SNSでバズることも多いのですが、切り取られた数ページだけではなく、是非、本編を通しで読んでいただけると嬉しいです」(同前)

「男女のホテル代は割り勘にすべき?」バズった“論破シーン”がエンタメとして成立しているわけ

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