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原稿も野球もコツコツやれば評価は上がる…40歳のオリックス・比嘉幹貴に見る積み重ねの大切さ

文春野球コラム ペナントレース2023

2023/05/31
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名球会入りクラスと肩を並べる比嘉幹貴のすごさ

 そして、彼らが置かれている状況は更に過酷である。何故なら彼等の多くは、「これから育つ」事よりも、「今すぐ活躍できる」事が期待されてプロ入りしているからである。そしてそれは投手の場合、入団から比較的早い段階で、多くの選手が先発よりもブルペンに回り、フル回転する事を要求される、という形で現れる。最近なら、入団後にいきなり故障して、昨年が事実上の初年度だった阿部翔太がその典型だろう。28歳で入団し、既に家族持ちだった彼にとって、プロ野球入りは人生の大ギャンブルだった筈である。だからこそ、どんなに過酷な状況のそれであっても、監督の登板命令は常に彼には「機会」だと考えられていたに違いない。遠いスタンドから誰が見てもわかるくらい明らかな彼のハングリーな姿勢は、そんな置かれた環境とは決して無縁ではないのだろう。

 そして、オリックスにはそんな阿部選手の良い「お手本」となる選手がいる。前回のコラムで取り上げた平野佳寿選手の日米通算800登板は別格として、それに次ぐこのチームでの登板数を誇るのは比嘉幹貴選手である。1982年生まれの比嘉は、今年の12月には41歳。その彼もまた、大学から社会人を経て遅い時期に入団した選手である。国際武道大学を出て、日立製作所で5年間プレーした彼は、2009年のドラフトを経て入団した時には既に27歳になっていた。つまりは阿部が入団したのと年齢は僅か1歳しか変わらない。更に言えば入団に至る過程では、一度、オリックスとの交渉が保留にもなっている。それはその年齢から、彼が入団を躊躇したからかも知れなかった。

比嘉幹貴 ©時事通信社

 その比嘉は現在では、オリックスにおける最年長選手であると同時に、現在の日本のプロ野球においても6番目に当たる年齢になっている。因みに今年のシーズン中に40歳以上になる選手は全9名。表にするとこんな感じになる。

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石川雅規 43歳 1980/01/22 ヤクルト
和田毅  42歳 1981/02/21 ソフトバンク
青木宣親 41歳 1982/01/05 ヤクルト
藤田一也 40歳 1982/07/03 DeNA
中島宏之 40歳 1982/07/31 巨人
比嘉幹貴 40歳 1982/12/07 オリックス
松田宣浩 40歳 1983/05/17 巨人
中村剛也 39歳 1983/08/15 西武
栗山巧  39歳 1983/09/03 西武
出典:「野球観戦の教科書」

 こうして見ると実に錚々たる顔ぶれである。今のプロ野球で40歳まで現役を続けるには、多くの場合、例えば投手なら150勝、打者なら1500本安打以上の、言わば「名球会入り」を狙える程度の実績が必要である事がわかる。

一つ一つの積み重ねの先に「通算成績」と評価はついてくる

 そしてだからこそ、この表の中に、比嘉の名前がある事はある意味驚きであり、意外にも見える。しかし、きっとそこにこそ彼の存在価値があるのだろう。その登板数は2023年5月29日現在で既に394試合。管見の限り、この数字は「オリックス」(つまり阪急時代を除く)における投手の登板数としては、平野、そして岸田護に継ぐ、3位になっている筈である。つまり、遅くしてプロ入りしたにも拘わらず、比嘉は、各々の時期の絶対的エースであった金子千尋や星野伸之よりも多く、我々オリックスファンの前に姿を表している事になる。そしてその事は彼が、2015年には左肩の大きな故障も経験している事を考えれば、さらに驚くべき事だ。

 にも拘わらず、彼が多くのレジェンド達と並ぶ、通算成績を上げられている理由はただ一つ。その在籍期間が既に今年で14年目、つまり、高卒で入団した選手でも、32歳まで勤め上げなければならない年数に達しているからである。そう、何かの新しい世界に少々遅れて参入する事になっても、そこから人よりずっと長くやる事が出来るなら、「通算成績」は若い頃から活躍した人に簡単に追いつき、逆転してしまうのだ。

 そんなことを考えていると、少しはこっちも頑張ってみようかな、と思えてくる。野球コラム、といよりコラムの様なものを書き出すのは遅かったけど、一つ一つ、積み重ねていけば、自分にもそれなりの「ライター」としての、「通算成績」と評価がついてくるかもしれない。だとすれば、きっとこうして6年間も黙々と(いやぶつぶつ言いながら)文春野球に書いてきたのにも、きっと何かの意味があるのだろう。こうして「コミッショナー」や「監督」の無茶ぶり、いや要望に応えていけば、そのうちもう少し待遇も良くなるかもしれない。だって、俺は佐々木朗希や山下舜平大じゃないもんな。

 ところで、俺、いつから「野球コラムのライター」になったんだっけ。まあ、難しい事はいいか。とりあえず、このコラム、さっさと原稿送信しときますかね。「来月」6月17日には、うちの大学院、神戸大学大学院国際協力研究科のオープンキャンパスもあるから、研究科長としてその準備もしないといけないからね。たくさんの学生さんが来てくれるといいな。

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