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《NISA、iDeCo、ふるさと納税…》“3000円の使い方”が数十年後の自分を変える!

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「まず、一日100円貯めてみよう」

 加谷 よく、ニュースなんかでは「物価高で家計がどこも苦しくなる」などと一般化されがちですが、そのような雑誌に寄せられる読者の声はリアルですよね。

 原田 そうなんです。それである時、「めざせ、1000万円!」という特集が組まれているのを目にしました。私自身、会社員を経て専業主婦だった時代もあるので、「えーっ、“普通の主婦”の方がやりくりだけで1000万円貯めるの!?」と衝撃で。これは絶対に小説になる、と思いました。

 加谷 それでこの本が生まれたんですね。単行本が出たのは2018年ですが、文庫化はコロナ禍の真っ直中。お金の使い方だけでなく仕事や生き方についても考え直す人が増えた時期です。働く夫を支え、家計簿をつけてやりくりしながら1000万円を貯めた73歳の琴子の「3000円の使い方で人生が決まるよ」という教えは、特にそんな人々の心を掴んだのだと思います。

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 物語には、琴子のように、気づけば1000万円の貯金ができてしまう人がいる一方、その孫・美帆のように、稼いでいてもなかなかお金が貯まらない人も登場しますよね。その違いはどこにあるのでしょう。

加谷珪一氏

 原田 「見栄」はひとつの大きなキーワードだと思います。美帆はおしゃれな生活に憧れ、就職してから1年ほどで祐天寺に部屋を借ります。中目黒まで5分、人気のブルーボトルコーヒーも近いし、家賃は9万8000円と少し高いけれど東京の南側ならだいたいこんなもの、とかなり満足している。他人はもちろん、自分自身の目も気にして、「このくらいのブランドのバッグを持たなきゃ」などと考え始めると、どうしてもお金は出て行ってしまいます。

 コーヒーを例にとってみると、スターバックスで買うのかコンビニで済ませるのか、はたまた自宅で水筒に入れてくるのかで、一日一日は些細なことに思えても、最終的にかなり大きな違いを生むと思うんです。

 加谷 美帆とは対照的に堅実な貯金や投資をする姉・真帆に「じゃあ、まず、一日100円貯めてみよう」と言われて、美帆はバカにされたように感じるという、実際の家族にありそうな場面もありました。

 原田 実は、私も20代の頃は彼女のように、お給料をもらっても気づけばすべて使い切ってしまうタイプだったんですよ。若い頃って仕事が大変で、そのストレス発散で散財してしまうんですよね。「自分へのご褒美」と称して(笑)。

 加谷 よく言われる“プチ贅沢”ってやつですよね。

 原田 はい。いまでも、月に一度〆切の後は何か飲んで食べたいな、という気持ちになってしまいます。

 加谷 ある人から聞いて、感心したことがありまして。社会人の男性で、自分へのご褒美を工夫しているのだとか。我慢ばかりだと息が詰まるし、かといってお酒やスイーツなどその場で消費するものに使っていては、お金がなくなってしまう。そこで、投資対効果が続くと思えるものを買うことにしているそうです。たとえば新しいネクタイやハンカチを買う。これもある種の投資と言えるでしょうね。

 原田 なるほど、長く使えるものですし、ご褒美という欲も満たせる。名案ですね。

 一方で、こうしたプチ贅沢さえも許されなくなるほど、昨今の物価高は確実に私たちの生活を圧迫しています。そもそもそんな時代に、どうお金を貯めていけばいいのか。まさに「三千円の使いかた」が重要になってくるのかなとは思うんです。