作家の原田ひ香氏と経済評論家の加谷珪一氏による対談「三千円の幸せな使いかた」を一部転載します(「文藝春秋」2023年6月号)。
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きっかけは主婦雑誌の節約特集
加谷 原田さんの小説『三千円の使いかた』(中央公論新社)は88万部を超えるベストセラーになっているそうですね。私も本を出していますが、出版不況の今、この数字は驚異的ですよ。
原田 そんな、畏れ入ります。
加谷 お金は人生と切り離せないものなのに、意外にもそれ自体を正面から扱った小説はこれまでほとんどなかったような気がしていて。
原田 そうなんです。M&Aやマネーロンダリングなど巨額のお金を扱う大がかりな経済小説はありますが、主婦や若い女性の目線で1000円、2000円を考えるものってないな、と感じていました。
加谷 では、かなり前から題材は決まっていたのですか?
原田 そうですね。ただ、きっかけは偶然でした。作家デビューして2、3年経った頃、美容院で手渡された雑誌の中に主婦雑誌がありました。読んでみると、これに心ときめいてしまって。当時の主婦誌といえば『すてきな奥さん』『おはよう奥さん』などが主流でしたが、存在は知りながらもじっくり読んだことはありませんでした。
もう15年近く前ですが、「年収200万円、夫婦・子1人の家族が年間30万円貯める」など、実例とともに節約方法を指南する特集が組まれていて、目からうろこ。賢く家計をやりくりしながら、部屋や身なりをきれいに可愛く整える。嫌々節約しているどころか、素敵な家族に囲まれ、とても幸せそうなんです。それ以来、今日まで雑誌を読み続け、節約術もいろいろ実践しています。