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女子大生は舌を抜かれ、放射能まみれで死んでいた…男女9人が変死体で見つかった「不可解な遭難事件」の真相

source : 提携メディア

genre : ライフ, 国際, 読書

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アイカーの説では、直接の死因たる頭蓋骨骨折も圧迫骨折も全て事故で説明がつけられ、怪死でも何でもないという。つまり本当の死因はテントから飛び出たことであり、飛び出ざるを得なかった、その理由は――超低周波音の発生だったと断言している。

「死の山」は標高1000メートルを少し超える程度の、さほど高い山ではない。勾配もゆるやかで、左右対称の、お椀を伏せた形をしている。

しかし一見おだやかそうなこの形が、強風のもとでは稀にカルマン渦(物体の両側に発生する、交互に反対回りの渦の列)を生じさせることがある。今回はテントをはさんで右回りと左回りの空気の渦ができて超低周波音を生み、中の人間を襲った。

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9人を同時に錯乱させ得るものなのか…

それでどうなるかといえば、耳には聞こえなくとも生体は超低周波音に共振し、ガラスのようにもろくなる。心臓の鼓動が異常に高まって苦しくなり、パニックと恐怖に襲われ、錯乱状態になるという。

ここが「死の山」と名づけられたのは動物がいないからだが、それは時折り発生するこの超低周波音のせいで棲みつかなかっただけかもしれない。

アイカーはこの説を専門家に肯定してもらったと記している。しかしその専門家は1人だけだし、検証がなされたわけでもない。完璧に証明されたとは言えないのではないか。

超低周波音が心臓に及ぼす影響は、理論的にはわかる。だがはたして9人もの人間を同時に錯乱させ得るものだろうか。それほど凄まじい超低周波音が存在するのか。かといって実験するわけにもゆかない。

結局この解答にもまだ謎が残り、ディアトロフ事件はこれからもずっと奇譚として語られ続けるような気がする。

中野 京子(なかの・きょうこ)
作家、独文学者
北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に関する広範な知識をもとに絵画を読み解くエッセイや歴史書を多く執筆。「怖い絵」シリーズは好評を博し、2017年には「怖い絵」展を監修、続く2022年にはコニカミノルタで「星と怖い神話 怖い絵×プラネタリウム」上映。近著に『災厄の絵画史 疫病、天災、戦争』がある。
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