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選択肢は多すぎても選べない…クラフトビールを100種揃える店が繁盛するためにボードに書くべき言葉とは

source : 提携メディア

genre : ビジネス, 働き方, 社会, 経済

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例えば、アメリカのアマゾンで「トイレットペーパー」と検索すると4000件以上ヒットします。必需品ですし、「1枚のシングルロール」か「2枚重ねのダブルロール」もしくは「柔らかさ」など好みはあると思いますが、確かなことはたった一つ。絶対に4000もの選択肢はいらないということです。

伝統的な経済学では、「人間は4000のトイレットペーパーを比較検討し、価格、品質、レビューもすべて見て一番いいものを選択する」ということを前提に考えます。実に合理的です。

しかし、実際にはどうでしょうか。行動経済学は「実際の人間の行動」を説明するための学問です。多少の比較検討はするかもしれませんが、実際、人は感覚で適当に選びます。

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そもそもなぜ、小売店やサイトはたくさんの商品を並べるのか? 理由は明確で、選択肢が少なすぎると人は興味を持たないからです。「選択肢は多いほうがよい」という思い込みを利用して、何種類も似たような商品を積み上げることにより、それを魅力的に思いお店にやってくる顧客を増やす。

その代わりに選択オーバーロードを生み出し、結果、消費者はどれも選ばない、という皮肉な状況になっているのです。

トロント大学の研究でベストだった選択肢は10個

それでは、行動経済学の観点からは、選択肢はいくつくらい提示するのがいいのでしょうか。

私のデューク大学時代の友人でもあるトロント大学の准教授アヴニ・シャーは、どのくらいの数の選択肢を見せたら、どのくらいの人が商品を購入するか調査しました。

この実験では、被験者である学生に「もし、この中にほしいペンがあったら、1本購入してください。なければ購入しなくてもいいです」と伝え、ある人は「2本から1本を選ぶ」、ある人は「20本から1本を選ぶ」というように選択肢の数を変えます。

結果は図表1の通りです。2本から選ぶ場合、ペンを購入した学生の割合は40%。4本の中から1本、6本の中から1本と選択肢が増えるほど、購入率も上がり、10本だと約90%で購入率は最も高くなります。