2020年9月2日から5日にかけ、メディアプラットフォームnoteを運営するnote社の主催で、リアル×オンラインの融合で創作の輪を広げる祭典「note CREATOR FESTIVAL」が開催されました。
連日おこなわれたトークセッションの中の一つ、「人間の輪郭を文学とテクノロジーから読み解く」には、小説家の平野啓一郎さんと人工知能研究者の松尾豊さんが登場。note株式会社代表の加藤貞顕さんがモデレーターを務め、最新の人工知能研究を紹介しながら人間の知能の謎に迫るという、知的好奇心をかき立てられるセッションになりました。
(構成=崎谷実穂)
メールや写真から、故人をAIで復元することはできる?
加藤 本日は芥川賞作家の平野啓一郎さんと、人工知能(AI)研究の第一人者である松尾豊さんをゲストとしてお招きしました。平野さんとは、5年ほど前に『マチネの終わりに』という作品の編集として、お仕事をご一緒いたしました。また松尾さんとは、2017年に東京大学松尾研究室の「Deep Learning基礎講座」を受講したご縁があります。
平野さんと松尾さんには、「人間とは何か」という命題を探求している共通点があると考えています。平野さんは文学、松尾さんはテクノロジーと、アプローチの方向が違う。本日は、そのあたりのお話をうかがいたいと思っています。
まずは、平野さんの最新作である『本心』という小説のお話から。こちらは、現在より少し未来が舞台なんですよね。人々がVRゴーグルをつけて、仮想現実の世界で過ごすのが当たり前になっている世界。そこで、AIが重要な要素として登場します。
平野 『本心』は、母親を亡くした青年がその悲しみから立ち直れず、仮想現実の世界にAIで動く「バーチャルフィギュア」と呼ばれる「擬似お母さん」を作ってもらうところから、話が始まります。人間は、人間を模したAIとどう関係をつくっていくのか。そこから、人間とは何かというテーマを掘り下げていきます。
脳のパラメータ数のほうが圧倒的に多い
加藤 作品内では、バーチャルフィギュアを作る業者がいて、そこに主人公がお母さんの書いたメールや写真、動画などのデータを提出するんですよね。実際そうしたライフログなどから、人間を模したAIはつくれるのでしょうか。
松尾 現在の技術ではまだ厳しいと思います。というのも、脳のパラメータ(変数)の数と、メールのテキストや写真などのデータを比べたときに、脳のパラメータ数のほうが圧倒的に多いんですよ。
昨年、イーロン・マスクが脳に極細の電極を刺して情報をとる技術を発表しました。でも、こういったデバイスを使っても、脳の中の情報を全部とれるわけではないんです。
平野 そうなんですよね。小説でも、データから完璧な母親がつくれるわけではない、という設定にしてあります。返答に違和感があったときは「お母さん、そんなこと言わなかったよ」と注意して、「前はこう言っていた」と訂正すると、AIが学習してより本物の母に近づく、ということにしてあるんです。
松尾 あはは、なるほど。