「絶対GPS持っていけって言いますよ」

――4年の準備期間があって、月の暦も用意していったけれども、本の帯にもあるように「すべてが想定外」だったと。デポがうまくいっていなかったというような大きな要因もありますが、旅全体としてはうまくいったのかいかなかったのか、どうでしょうか。

角幡 計画通りにいかなかったという意味では、うまくいきませんでしたが、計画していた以上に極夜の世界に深く潜り込めたという点では、当初の計画以上の成果を得られたと思います。本の中にも書きましたが、極夜の特に暗い時期の後半は3週間くらい休む予定でした。休んでさらに北に行ったとしても、結果的に海峡が凍らなかったので目的地のカナダには行けなかった。凍ってないからということで引き返して来て、その途中でまったりと太陽を見て旅が終わったと思うんですよね。そうだったとしたら、ここまで太陽に感動するとか、闇の世界に絶望するとか、月にむかつくとか、そういう経験はできなかったと思います。要するに本当に暗い期間である、12月10日くらいから1月20日くらいまではほとんど休みなく動くことになったので、そこで極夜の闇の世界を深く知ることができたんです。

1月1日、アウンナットの小屋に到着。2週間ほどで着くと思っていたが、結局27日も掛かってしまった ©角幡唯介

――極夜ってどんなところだったと言えますか。

角幡 宇宙を歩いているみたいです。月とか星とかきれいだし。映画のような世界ですよ。見た目は。

――この景色は俺以外の誰も見たことのない景色なんだ、と思うこともありますか。

角幡 それはあります。ただ見るだけだったら、北アルプスや冬の北海道で夜に空を見上げれば同じような景色かもしれませんが、そこに行くまでの苦労が違うので。完全に人間界と隔絶しているから、それが風景をさらに宇宙的に見せるというのがありますよね。あと、ひとりなので、風景への入り込み方が違う。俺と地球、という気持ちになるんですよ。地球の中に俺がいるみたいな。自然の中に自分ひとりだけがいて、自分ひとりの判断で前に進んでいく。それが、自由ということなんだと思うし、それがいいからまた行くんだと思うんですよね。

――誰かが「僕も角幡さんと同じように極夜の旅をしたい」と言ったら、どうアドバイスしますか。

角幡 絶対GPS持っていけって言いますよ。

旅の大事なツール、六分儀を早々に失ったため、地図とコンパスで旅をした

――自分はあえて持っていかなかったのに。他には? 犬は絶対いたほうがいいよとか。

角幡 犬はいたほうがいいですよね。あとは……やっぱりやめたほうがいいんじゃないですかって言います(笑)。

旅の相棒の犬・ウヤミリック。食料が尽きかけ、犬を食べる想像をしたことも ©角幡唯介

――でも地球を感じられるようなすごい体験ができるんですよね。自分が経験したものを他の人に味わわせたくないというような気持ちがあるとか?

角幡 それはありますよ。自分と同じことはやってもらいたくないですよ。自分より華麗にやられたら困りますから(笑)。