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近所から怒声や苦情が殺到…「犬の認知症」で夜鳴きが止まらなくなった愛犬に80代女性が下した苦渋の決断

source : 提携メディア

genre : ライフ, 社会

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止まらない夜鳴きが近隣トラブルを招く

高齢犬の病気でもっともやっかいなのは認知症だろう。

「認知症の犬を初めて診察したのは1980年頃でした。昼夜が逆転し、夜に徘徊(はいかい)して、庭の生け垣に入り込んで動けなくなる。物悲しい声で鳴き続けると相談されて、人間の痴呆(当時は認知症をこう呼んでいた)のようだという印象を受けました」

そう回想するのは、山口動物病院(千葉県市原市)の山口靖人院長だ。同院は、動物を診る大学病院が存在しないこの地域で、大学病院並みの動物医療の提供を目指し、1978年の開業以来40数年。年中無休で約1万5000日、夜間も病院を開けてきた。

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山口院長によると、日本で犬にも認知症があることが広く知られるようになったのは1990年頃。それ以前は、認知症になるくらいまで長生きする犬はいなかったという。

「飼い主さんが切羽詰まって受診するのは、夜鳴きですね。近隣からの苦情や脅迫におびえ、困り果ててやってきます。グルグルと同じ方向に回り続ける・部屋の四隅とか隙間にはさまっても後退できず出られないといった症状も多いですが、夜鳴きほどには困らない」

治療には、たとえば同じ方向に回り続ける犬に対しては、段ボールやお風呂マットでサークルを作り、疲れるまで歩かせてあげるなどの対策をアドバイスし、サプリメントも処方する。

飼い主の自己責任でいいのか

問題の夜鳴きには、鎮静剤を使う。よく効くのは、アセプロマジンという薬で、30分くらいで効果が現れ、少なくても4、5時間、長い場合は9時間から10時間くらい持続する。

「アセプロマジンがよく効くので、当院では、夜鳴きが原因で声帯切除に至るというケースはないですね。でも、これ以外の薬を使っている先生のところでは、追いつめられる患者さんもいるかもしれません」

年金生活の高齢者にとって、ペットの医療費にかかる経済的負担は重い。車なしには、通院できない地域もある。何より、飼い主本人が元気でなければ、ペットの面倒を見るのは難しい。ペットの老々介護問題は、単純に、飼い主の自己責任では済まされないのではないだろうか。

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