2023年のレギュラーシーズンも残りわずかとなった。クライマックスシリーズ(CS)に向けてソフトバンク、ロッテと三つどもえの戦いを繰り広げているなかで、今年この2人がいなかったら今の位置にはいないであろう、楽天のブレイクした“遅咲きコンビ”について書いていく。

 9月末。2軍施設のある森林どりスタジアム泉で三木肇2軍監督への取材中に出てきた話が今回の題材の元となった。

「1軍はメンバーを整えて勝つのみだけど、我々ファームのスタッフは若い選手の教育・育成、あとは中堅、ベテランの調整(が役割としてある)。今年だったら僕も目をかけてきた村林(一輝)、小郷(裕哉)だったり、投手も1年目の渡辺(翔太)にしても、藤平(尚真)もあんな感じだけど、ちょっと違うところも見えたり。いろんなことを経験して前には進んでいる」

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 村林と小郷についてはファーム暮らしも長かっただけに思い入れも強いのだろう。興味津々の様子でこう続けた。

「会って話してみたいよね。1軍でやれているのは、(何か)きっかけがあったのか、今後どうしていきたいのかとか。1軍で少し対応できるようになったのは何(の理由)があったのか」

 2人が1軍に定着できた要因はなんだったのだろうか――。

村林一輝 ©時事通信社

村林が「補欠」の立ち場から成り上がった背景

 高卒8年目の村林は遊撃のレギュラーをつかんだ。開幕前は山崎、小深田が併用される予想だったが、ダークホースが差し切った形となった。

 昨季終了後の契約更改では異例の1時間超のロング交渉で50万円の微増でサイン。球団の評価を上げるには「レギュラーを取るしかない」と並々ならぬ覚悟を語っていた。

 開幕こそ2軍で迎えたものの、4月下旬に巡ってきた昇格のチャンスをものにした。95試合で打率2割5分9厘、2本塁打、30打点をマーク。いずれもキャリアハイの成績で、運動量の多いポジションを考えれば胸を張れる数字だ。「今までにない感情がある。チームが勝つために動いていて、自分がそのピースになれていることがうれしく思います」と話す表情にも充実感が漂う。

 昨季までは終盤の守備固めと代走要員がもっぱらの役割だった。言わば「補欠」の立ち場から成り上がった背景には三木2軍監督からの教えと肉体改造があった。

「守備は三木さんが評価してくれていて、あとは『細かいところを詰めろ』と、よく言われていました。技術のことも精神的なところも全部ですね。あとは『毎日同じ気持ちで臨むこと』とも言われました」。どんな結果になろうとも一喜一憂せずに次の試合に向けた準備を怠らない―。プロとしては当たり前のことかもしれないが、気持ちの切り替えができずにスランプに陥る選手も数多くいる。そういった選手を数多く見てきたからこその指導だったのだろう。村林はこの教えを着実に実践してきた。

 プレー面で私が感じたのは打球の質が格段に上がった点。これまではフェンス手前で失速していた当たりが、フェンスを直撃したり、外野の間を抜けていくシーンが何度もあった。本人も確かな手応えを口にした。

「それって一気に変わることじゃないんです。トレーニングやフィジカル強化だったり、今までやってきたことがようやく成果として出てきている。トレーニングはすぐに結果が出るものじゃないですから」

 個人トレーナーの指導の下、4年前から肉体改造に励んだ。浅村と岡島には頻繁に食事に連れて行ってもらい、とにかく量を食べた。苦手だった白米も胃に詰め込み、入団前は70キロを切っていた体重も80キロ近くまで増えたことで筋肉量も上がった。「結構変わったと自分でも思う。パフォーマンスにはつながっている」。周囲の支えと自らの努力がようやく実を結んだ。