大切な家族やあなた自身がどんな最期を迎えたいと考えているか、赤裸々に話し合ったことはありますか? 「自宅でなら安らかな死が迎えられる」と美談ばかりが語られてきた在宅医療に様々な問題があることが明らかになりました。ドラマや映画の中ではない「リアルな死」を知らない人が多い現代の日本社会。家族も本人も後悔しない“平穏死”を迎えるには、元気なうちから死を自分の事として考えておくことが大切です。

 兵庫県尼崎市で20年以上にわたり在宅での看取りに取り組み、著作『痛い在宅医』(ブックマン社)が話題の長尾和宏医師に、医療現場に詳しいジャーナリストの鳥集 徹さんが「在宅医療のリアル」を聞く最終回です。

#1#2から続く

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鳥集 モルヒネなどを投与しても耐えがたいほどの苦痛を訴える末期がんなどの患者さんには、鎮静薬でウトウトと眠らせる「鎮静」という方法もあります。長尾先生はどうお考えですか?

長尾 大病院やホスピスでは鎮静率50%と聞いたことがあります。しかし、僕らはほとんど鎮静しません。去年も100人のうち1人やったかどうか。鎮静を積極的に行うべきかどうかについては、実は緩和ケア医のあいだでも議論があります。確かに鎮静をすれば患者さんは深い眠りにつき、苦痛を感じることはありません。ですが、意識がなくなって、無理やり起こさない限りしゃべることができなくなりますし、命が縮んでしまう可能性もあります。これは倫理的に正しいことなのか、日本では犯罪とされる「安楽死」に当たらないのかどうか、慎重に考える必要のあることなんです。

鎮静をあまりやらないのは最期の言葉を残せないから

在宅診療中の長尾さん 写真提供:長尾クリニック

鳥集 長尾先生は、どうしてあまり鎮静しないんですか?

長尾 若い人のほうが痛みに敏感で、とても苦しむことが多いので、そうした方には鎮静することもあります。といっても、鎮静薬を点滴で入れて深く眠らせる方法ではなく、ラムネのような睡眠薬を口から飲んでいただき、浅く眠らせる方法をとることが多いです。僕は大病院やホスピスで鎮静率が高いのは、点滴のしすぎで溺れているような状態になり、息苦しさを訴える人が多いせいではないかと思っているんです。それに僕は、やはり意識は大切だと思っていて、せっかく目が覚めてるなら、しゃべってもらったほうがいいと思うんです。小林麻央さんだって、海老蔵さんの帰りを待って、最期に「愛してる」って言い残して亡くなったでしょう。もし病院でたくさんの点滴を受けて鎮静をかけられていたら、最期の言葉を残すこともかなわなかったはずです。