テスラが廉価モデル「モデル3」の量産に苦戦し「プロダクション・ヘル(生産地獄)」に嵌まり込んでいた2017年、米国の著名なベンチャー投資家はこういった。
「われわれは鼻血が出そうな損失、涙が出そうなキャッシュ・バーン(現金燃焼)、頻繁に公表される胸が躍るようなニュースに慣れっこになっている」
3ヵ月ごとに3000億~4000億円を「燃やしていた」とされる、あの頃のテスラに比べれば、今の楽天グループの赤字など「可愛いもの」とさえ言える。
全国に7万局の基地局を開設し、販売・サービス体制を整える。全国を網羅する携帯ネットワークをゼロから作っているのだから、最初の数年が大赤字になるのは当たり前だ。
「今年が山場かな」
2022年度、国内ECの営業損益は前期比36.6%増の956億円の黒字、「楽天カード」に代表されるフィンテック事業の営業損益も10.8%増の987億円の黒字。ひとつのプロジェクトが完成してキャッシュが手に入るまで何年もかかるゼネコンなどと違い、ECもフィンテックも日銭が入る商売なので、利払いに詰まることはまずない。貸し手からすれば、取りはぐれの少ないビジネスだ。
それでも銀行出身で用心深い三木谷は、外部からの出資受け入れや、楽天銀行の上場などで資本を分厚くしようとしている。
「今年(2023年)が山場かな」
苦しい資金繰りを強いられるのは2023年度まで、と三木谷は言う。その後は、設備投資が一段落し、自社のアンテナが届かない場所でKDDIのアンテナを借りている「ローミング」のコストも劇的に下がる。そして海外の通信会社に「完全仮想化」の技術が売れ始める。
楽天シンフォニーは3月1日、サウジアラビアの通信大手ザインKSAと携帯ネットワーク仮想化技術での提携を発表した。MWCの期間中、日本メディアのぶら下がり取材を受けた三木谷は、楽天シンフォニーの受注残高が4500億円に達していることを明かした。
さらに今回、三木谷はバルセロナに滞在した3日間で北米、欧州、中東、アジアの通信大手14社と商談をこなした。三木谷以外の幹部が対応した案件を加えれば100社以上とコンタクトした。やがてこれらの商談の中からも新たな成果が生まれてくる。