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柳家喬太郎「腹を据えて向き合わなければ、新しい本格は生まれない」〈赤兎馬噺 私の本格 第一席〉

柳家喬太郎「腹を据えて向き合わなければ、新しい本格は生まれない」〈赤兎馬噺 私の本格 第一席〉

SEKITOBA STYLE #1

2023/09/27
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 円熟の語り口に現代的な感覚をしのばせる古典、卓越した創造力と演技力を満喫させてくれる新作、どちらにおいても当代屈指の実力と人気を誇る落語家、柳家喬太郎さん。中学時代より落語にのめり込み、一度はサラリーマンとして書店に勤務するも夢さめやらず、1989年、25歳で柳家さん喬さんのもとに弟子入りを果たす。2000年に12人抜きでの真打昇進が話題になるなど、早くからその評価は高く、今や「最もチケットがとれない落語家」の代表格だ。

「文春落語」での独演会も30回を重ねた人気落語家、柳家喬太郎さん。
「文春落語」での独演会も30回を重ねた人気落語家、柳家喬太郎さん。

柳家の王道の落語に真正面から取り組み、その上で新作を創りたい

 芸域の幅広さから「古典と新作、本当はどちらがやりたいのか?」と問われることも多かったという喬太郎さんだが、「おんなじですよ」と即答。

 「古典でも新作でも、やりたい気持ちは同じくらい。といって、半々の50・50じゃなく、100・100なんですよね、自分の中で。どちらも100、めいっぱいやりたい。だから、さん喬の弟子になって柳家の王道の落語に真正面から取り組み、その上で新作を創りたい、演じたいと思ったんです」

 時には古典こそ本格落語だという声も耳にするが、自分は決してそうは思わないと喬太郎さんは言う。

 「要は腹の据え方だと思うんですよ。どんなにオレは本格だ、王道だって言って古典落語をやっていたって、腹が据わってなきゃダメなんです。舐めんなよ、こっちは生半可な覚悟で新作創ってんじゃねえんだ、頭掻きむしって気が狂いそうになるほど考えに考えて創ってんだってね。身を切って血を流して創る、正面からぶつかって、傷つくことから逃げない。それが『腹が据わる』ってことだと思います」

「若いうちに夜眠れるようじゃ駄目だ」

 落語なんてものに出会わなければこんなに苦しまなかったのに、と思った時期も長かったという喬太郎さん。しかしそれは、こんなにのめりこめるものに出会えたという幸せの裏返し。「好きなことを仕事にできているのだから、とことん努力してとことん苦労しなきゃ、お客さまに申し訳ない」と語る。

 「もちろん、古典も同じです。僕の大師匠の五代目柳家小さんが、『若いうちに夜眠れるようじゃ駄目だ』って言っていたそうですが、それぐらい悩みに悩んで考えろってことなんでしょう。そうやって自分のものにしなければ、古典だろうが新作だろうが、本格とは呼べないと思いますね」

「スッと飲めて、後から芋のきれいな香りが追いかけてくる。こんな芋焼酎は初めての体験でした」。
「スッと飲めて、後から芋のきれいな香りが追いかけてくる。こんな芋焼酎は初めての体験でした」。

 そんな喬太郎さんが、9月の「文春落語」の打ち上げで乾杯に選んだのが、鹿児島の焼酎蔵、薩州濵田屋伝兵衛が醸す「薩州 赤兎馬」。明治元年創業という伝統を大切に守りながらも、「今までにない革新的な焼酎を」という強い信念で生み出した本格芋焼酎だ。

 「ひと口飲んで驚きました。すっきりと爽快な飲み口なんだけど、後から芋の香りと味わいがフワッと追いかけてくる。芋焼酎というのは種類によってちょっとクセが強いものもあるように感じていたんですが、この『赤兎馬』は一切そういうところがありませんね。わ、こんな芋焼酎があるんだと、これは初めての経験でした」

 本格焼酎とは、麹と規定の原料を使い、一切の添加物を加えずに単式蒸留器で蒸留したものをいう。蒸留を一度にとどめることで、原料本来の風味を損なうことなく、豊かな香りと味わいを引き出している。「赤兎馬」はそこからさらにろ過を丁寧に行い、貯蔵をし、原酒の力強さを大切に残しながら、手間をかけて淡麗にして芳醇、シャープながらフルーティという新しいおいしさを作り出しているのだ。

本格芋焼酎
薩州 赤兎馬
本格芋焼酎
薩州 赤兎馬

身を削るような挑戦を重ねて、この「赤兎馬」に至っているんでしょうね

 「昔ながらの芋焼酎好きが『赤兎馬』を飲んだら、もしかすると一瞬『おや?』と思うかもしれませんが、すぐに追いかけてくる芋の香りに『これ、これ』と満足すると思いますよ。さわやかな飲み口がどんな料理にも合うし、これまで芋焼酎を飲んでいなかった人にもおすすめできます。たぶん作り手さんは、これまでの伝統を守りつつ、いかに新しい芋焼酎を生み出すか、それこそ身を削るような挑戦を重ねて、この『赤兎馬』に至っているんでしょうね」

 腹を据えて落語に向き合う喬太郎さんと、研ぎ澄まし、磨き抜いてたどり着いた「赤兎馬」の味わい。本格同士の出会いが、ここで生まれたようだ。

「繊細な味わいで料理の邪魔をしない。これなら洋食に合わせてもいいかもしれませんね」。
「繊細な味わいで料理の邪魔をしない。これなら洋食に合わせてもいいかもしれませんね」。

 最後に、喬太郎さんが「これぞ本格」と思う噺を尋ねてみた。

 「師匠さん喬の『雪の瀬川』はまさに本格で、これはオレはできないな、と思う噺ですね。師匠のを聞いたらもう圧倒されちゃって、この空気は自分には絶対創れないと思っちゃう。僕にとって侵さざるべき“不可侵領域”なんです。いつかは自分も挑戦したほうがいいのかな、という気持ちもなくはないんですけどね」

 「赤兎馬」片手に、喬太郎さんが語る「雪の瀬川」に耳を傾ける。いつの日かそんな極上のひとときが楽しめるかもしれない。

赤兎馬についてはこちら

【プロフィール】
やなぎや・きょうたろう●1963年東京都生まれ。日本大学商学部卒業後、書店勤務を経て89年に柳家さん喬に弟子入り。前座名は「さん坊」。93年、二つ目に昇進し「喬太郎」と改名。2000年、真打昇進。05年~07年国立演芸場花形演芸会大賞ほか、受賞多数。古典・新作ともに落語界を代表する実力を誇り、近年は映画や芝居などでも。2020年より落語協会常任理事を務める。

提供:濵田酒造株式会社 焼酎蔵 薩州濵田屋伝兵衛
https://www.sekitoba.co.jp/

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