文春オンライン
《負債額1300兆円で中国経済崩壊⁉》バッドニュースだけでは分からない本当の中国経済危機と習近平の“失策”

《負債額1300兆円で中国経済崩壊⁉》バッドニュースだけでは分からない本当の中国経済危機と習近平の“失策”

2023/09/22
note

新型コロナの後遺症

「中国不動産市場の危機は、個別企業の経営危機というミクロな問題以外に、マクロ経済、都市化の展望、合理的バブル・スキームの終焉という3つの側面があります」

 中国経済を専門とする、経済学者の梶谷懐教授(神戸大学大学院)はこう指摘する。

 2020年夏、中国政府は不動産市況の過熱を防ぐために、一連の不動産市場抑制策を導入した。そのうちの一つ、「3つのレッドライン」と呼ばれる規制が不動産企業の経営を直撃した。債務を減らさなければ新たな銀行融資の借り入れを禁ずるという内容で、自社社員にまで高利回りの金融商品を売りまくって金を集めまくっていた恒大集団、金融機関から多額の借り入れをして高速で物件を販売するスタイルをモットーとする碧桂園など、ハイレバレッジで成長していた企業を中心に経営危機に陥る事例が連発している。これがミクロな問題だが、それだけではない。

ADVERTISEMENT

 まず、マクロ経済。2020年初頭、新型コロナウイルスの流行を受け、中国政府は強力な景気対策を実施した。最初の流行地となった湖北省全域を封鎖しただけではない。1月末から約1カ月にわたり、中国全土で外出自粛などの厳しい感染対策を敢行し、経済活動を止めてしまった。同年第1四半期の経済成長率はマイナス6.9%と落ち込んだ。中国統計史上唯一のマイナス成長だ。この手当が必要だったというわけだ。

 対策は金利引き下げ、社会保険料企業負担分の免除や繰り延べという形で行われた。国民や企業への現金給付などはなく、企業に対する金融支援に特化していたのが特徴的だ。

 強力な感染対策が成功し、中国は2020年4月以降、コロナ新規感染者数をほぼゼロに抑え込むことに成功した。経済指標も順調、むしろ世界でモノが不足するなか、製造業にはコロナ特需が舞い込んでくる……。万々歳に思えたが、2021年以降に暗転する。

 もうコロナは終わったとばかりに、こうした優遇措置は終結してしまった。企業は低金利とはいえ借りた金は返さなければならない。繰り延べされた社会保険料も支払わなければならない。一方で2021年夏以降、デルタ株の流入によってコロナの散発的な流行と経済活動への打撃は広がっていく。感染が拡大しても、2020年のような景気対策が復活することはなかった。

「借金が増えて売上が落ちたのでは経済成長が停滞するのは当然です。このマクロ経済の問題は中国経済全体に影響するものですが、特に被害が表面化したのが不動産企業なのです」(梶谷教授)

高口康太氏

ゴーストタウンと化す習近平肝いりの未来都市

 第二に都市化の展望だ。平均で見ると、農村住民よりも都市住民のほうが所得は高い。ならば都市住民の数を増やす都市化を進めていけば、中国は豊かになり経済は成長する。都市住民を増やす、都市化を加速させようと、習近平政権は2014年、新型都市化の政策を打ち出した。

 市街地人口1000万人超を超大都市、500万~1000万人を特大都市、100万~500万人を大都市、50万~100万人を中等都市、50万人以下を小都市と分類した上で、超大都市、特大都市への人口流入を減らし、それ以下の都市を発展させるという方針だ。都市化といっても大都市をさらに巨大化させるのではなく、小粒な都市を増やす、中規模の都市を大きくするというわけだ。

 ただ、今振り返れば、この習近平の目玉政策は裏目に出たと言わざるを得ない。

「都市化の方針自体は正しいですが、内陸や郊外の発展を優先させる新型都市化は低密度の開発という問題をもたらしました」と梶谷教授は指摘する。

 というのも、多くの人々は「都市に住みたい」のではなく、「北京や上海の大都市に住みたい」と考えている。ハコだけ作ってもそれに見合うだけの需要はない。そもそも都市は一定の空間に産業と人口が密集することにより、効率を上げ、人間の交流に伴うイノベーションを促進させることに真価がある。ついこないだまで畑だったド田舎に巨大マンション群を作り上げても、“なんちゃって都市”にしかならないというわけだ。

 田舎の都市建設の多くは失敗に終わった。高層マンションが建ち並んでいる街に人影がまったくない。時には建設途中で工事がストップし廃墟となることも。こうした街を歩くと、住民たちは神隠しにあったのか、ひょっとするとハリウッド映画のセットなのか、サバイバルゲームの市街戦ステージでもやったら人が集まりそうだ……と、その現実離れした光景に奇妙な妄想がわいてくる。

 実際にいくつかの街を見たが、習近平総書記肝いりの新副都心建設計画「雄安新区」は特にすさまじかった。なにもない荒野に、200万人が住む巨大都市をゼロから作ろうという壮大なプロジェクトだが、住民がほとんどいないのにマンション、ビジネスセンター、スタジアム、病院などがすさまじい勢いで作られ、着々と巨大ゴーストタウンが作られているのである。

高口康太氏による「中国不動産バブルは崩壊したのか――経済ブレーンが手を焼く習近平という障害」全文は、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。

《負債額1300兆円で中国経済崩壊⁉》バッドニュースだけでは分からない本当の中国経済危機と習近平の“失策”

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

文藝春秋をフォロー