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《負債額1300兆円で中国経済崩壊⁉》バッドニュースだけでは分からない本当の中国経済危機と習近平の“失策”

《負債額1300兆円で中国経済崩壊⁉》バッドニュースだけでは分からない本当の中国経済危機と習近平の“失策”

2023/09/22
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ここ最近、雑誌やインターネットで盛り上がりを見せている「中国経済崩壊」論。大手不動産デベロッパーの経営危機や若年層の失業率の上昇など、たしかに中国経済にまつわるバッドニュースが並ぶが、果たして実態はどうなのか。

 

中国研究家でジャーナリストの高口康太氏が、中国経済に今、何が起きているのかを徹底解説する(「文藝春秋 電子版」より一部転載)。

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  上半期の赤字は1兆円――中国不動産デベロッパー最大手の碧桂園(カントリー・ガーデン)は決算報告で深刻な経営危機を明かした。同社だけではない。2年前に債務危機が表面化した恒大集団(エバーグランデ)は今年7月になってようやく2021年、2022年の決算を発表したが、2年で約11兆円の巨額赤字という信じられない数字となった。昨年末の負債総額は2兆4374億元(約48兆円)とこちらもすさまじい。

 かねてからバブルと言われてきた中国の不動産市場が暴落すれば、もう一つの時限爆弾に火が付きかねない。地方政府は第三セクター企業(Local Government Financing Vehicle、LGFV)に債券を発行させ、実質的な財源としてきた。その債務はなんと9兆ドル(約1300兆円)にまで積み上がっている。地方融資プラットフォームと呼ばれる、この時限爆弾が破裂すれば中国経済、いや世界全体にどれほどの影響が及ぶのか。

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 このように、中国経済の先行きを悲観する議論が広がっている。雑誌やインターネットを見ると、久々に「中国経済はまもなく崩壊する」という話でにぎわっている。検索回数の多寡を指標化したサービス「グーグルトレンド」によると、2015年7月の株価急落、いわゆるチャイナショック以来の盛り上がりである。「中国経済崩壊」は一時期、人気コンテンツであったが、そうした論考に反していつまでたっても崩壊しないため下火となっていた。今、久方ぶりに復活しようとしているわけだ。

 そうした盛り上がりの中で本稿はちょっと毛色が違う。「不動産バブルが崩壊し、中国経済はボロボロになる」と断言することもないが、一方で「中国経済に不安はない」という擁護でもない。「日本のバブル崩壊と同じことが起きている」と、なんとなくわかった気になれる説明でも終わらない。

 中国経済危機の深層を深掘りし、「打つ手のない苦境」ではないことを明らかにしつつも、それでも不安は残る……というややこしい構成になっている。というのも、今回の危機がもともと複雑な構造をしているためだ。

 一部で期待されているような、「中国はもう終わりなのだ」というわかりやすさではないが、中国経済に何が起こっているのかというややこしい全体像を、できうるかぎり平易に解説した。本稿を読んでいただければ、問題の構造がはっきりと理解できるはずだ。ぜひご一読いただきたい。

バッドニュースばかりの中国経済

 まず、現行の中国経済とその危機がどのようなものかを押さえておこう。

 若年層(16~24歳)の都市調査失業率は6月に21.3%と過去最高を記録した。若者の失業に中国内外の注目が高まるなか、7月からは若年層失業率の発表そのものを取り止めている。統計をより適切な方式に改めるためと説明しているが、中国経済を知るための材料が一つ減ったことは事実。世界の不信感を招いた。

 消費も低迷している。特に自動車や家具、宝飾品など高額商品の売れ行きは昨年を下回る。EV(電気自動車)の高成長という輝かしいニュースの裏側で、内燃車の販売不振が深刻化している。日系メーカーが売れないと言われるが、中国で販売されているのは日系メーカーと中国国有企業の合弁会社が製造した車だ。深刻な販売低迷に中国企業からも悲痛な声が上がっている。

 消費低迷の裏側でひたひたと進行しているのが物価の下落だ。今年に入って低空飛行が続いていたが、7月にはついにマイナス(前年同月比0.3%減)となった。ついにデフレに突入したとの見方も有力だ。

 輸出も良くない。5月から8月まで4カ月連続で前年比割れが続いている。いわゆる世界的なコロナ特需の退潮が大きいとみられるが、中国国内が弱り今こそ外需が必要なタイミングでの急ブレーキはショックが大きい。

 そして、冒頭であげた不動産だ。碧桂園、恒大集団だけではない。不動産大手・遠洋集団も債務不履行に陥ったほか、中国経済誌『財新』によれば、年内の債務不履行が懸念される中国不動産企業は65社にのぼるという。

不動産不況の象徴とされ、「世界一高い未完成建築」でもある高銀金融117(天津市郊外・筆者撮影)

 不動産は中国経済を支える柱だ。建材や内装、家具、家電など裾野が広いだけに、GDPに占める不動産関連の比率は30%に達するとの推計もある。ここが崩れればその影響は計り知れない。

 経済のみならず、地方政府にとっても致命傷となるだろう。先に触れたように、中国の地方政府は地方融資プラットフォームと呼ばれる第三セクター企業を通じて、多額の債券を発行し、インフラ建設などの費用にあててきた。その債務の残高は9兆ドル(約1300兆円)にのぼると推計されている。あの2008年の世界金融危機の発端となったリーマン・ブラザーズの負債額は6000億ドル(約88兆円)だった。「土地財政」が破綻すれば、リーマン・ブラザーズの14倍もの負債、1300兆円の超巨大な時限爆弾が爆発しかねない……。

 とまあ、悪いニュースばかりが並ぶ。こうしたニュースのいくつかをつまみ食いすれば、「瀕死の中国経済」的なニュースのいっちょあがりだが、果たしてどこまで深刻なのか、一連のバッドニュースのうちどれが無視しうる問題で、何が厳しい問題なのか、その構造を解き明かした解説はほとんどない。