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清宮幸太郎の「プロ1号、2号」 鎌ヶ谷のファンが騒がなかった理由

文春野球コラム ペナントレース2018

2018/04/27
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清宮だけを求めていない鎌ヶ谷の常連たち

 そういえば、と前回鎌ヶ谷を訪れた1月のことを思い出した。文化放送のラジオ番組で新人合同自主トレ初日の取材に来たのだった。“清宮フィーバー”的な音を収録しようとアナウンサーがファンにマイクを向けたが、鎌ヶ谷スタジアムの常連たるおじさん達は冷静だった。「お目当ては清宮選手ですか?」と向けられたマイクに「清宮選手だけじゃなく新人みんなを見に来た」という答えが続いたので文化放送アナは「札幌から清宮くんを見に来ました!」という声を録音するまでに少々時間を要した。

 おそらく、この日もそうだったのだ。鎌ヶ谷の常連さんは清宮幸太郎だけにフォーカスしているわけではない。インタビューした中に「選手たちの写真を撮るのが趣味」と大きなレンズのカメラを携えた男性がいた。きっと中田翔のときも斎藤佑樹のときも全てのルーキーをファインダーでのぞいてきたに違いない。ドラフト1位の斎藤佑樹と同じくらいドラフト2位の西川遥輝にもフォーカスし、菅野智之に入団拒否された年には松本剛や近藤健介らに向けてシャッターを切ったのだろう。

 今回、清宮の二軍成績を調べようと思ったが、ファームの情報は意外と少ない。何打数何安打だったかはわかっても、ヒットが何打席目だったかはネットを検索してもなかなか出てこない。試合のアーカイブは球場に足を運んだ人の特権だ。彼らは“ここでしか見られない野球”を見ている。

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 この試合、二番ショートで出場した清宮と同期のドラフト4位・難波侑平(#55岡山・創志学園)がはつらつとしたプレーを見せていた。打者有利なカウントから難しい球に手を出してファウルするところを見るとミートに自信があるのだろう。打席のたびに「難波くーん」と声がかかった人気者は清宮と共に3安打猛打賞だった。僕はその姿を目に焼き付けておこう。同期の人気者よりも先に1億円プレーヤーになった西川のように、何年後かは清宮よりも稼いでいるかもしれないのだ。

 清宮の6打点にも関わらず投手陣が打ち込まれ8対11で迎えた9回裏、無死満塁で5度目の打席がまわってきた。一発出れば逆転サヨナラ。清宮ならやるかもしれない。2ストライクと追い込んだマリーンズ阿部和成がストレートで押してくる。清宮が5球、6球と、ファウルで粘る。結局、ピッチャーゴロ併殺に倒れたとき、スタンドのあちこちからホッとしたような笑顔がこぼれた。残念なんだけど笑っちゃう、「そうはいかないよな」と。鎌ヶ谷の常連さんたちも力が入っていたのだと思った。

 試合が終わったあと、すぐに出てきてしまったが、太陽が傾きかけた鎌ヶ谷スタジアムでは、飯山裕志コーチによる清宮と難波の特守が行われたらしい。そんな光景も見たかったな。次回はぜひと思うが、清宮が鎌ヶ谷にいつまでいるかはわからない。

ファイターズファン仲間のグループLINEに送った画像 ©近澤浩和

追記 清宮幸太郎はこのあと4試合で2本の本塁打を放ち、ここ5試合で4本の量産体勢だが、一軍昇格の動きはまだない。

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