《筆者は「セクハラ疑惑のことは頭の隅にあった。しかし、訃報(ふほう)を受けてすぐに載せる新聞コラムで、正面からその点を論じることはしなかった。(執筆当日の朝刊に載った「光と影」の記事は)読み落としていた」と答えた。》
えーー、記事を「読み落としていた」!? そんな馬鹿な。あ然とする答えである。
というのも、私ですらその「光と影」の記事は読んでいたからだ。重要だと考えていたので昨年4月18日の当コラムでも紹介していた。このときは元ジュニアのカウアン・オカモト氏が告発会見をした後であり、新聞がどう報じたのかコラムを書いたのだ。
以下抜粋する。
実はジャニー氏が亡くなったときの報道も気になっていた。朝日の「評伝」はアイドルの原石を見抜く力は天才的というジャニー氏の功績に続き、後半に「男性アイドル育成、光と影」という小見出しがあった。
《一方、1999年には所属タレントへのセクハラを「週刊文春」で報じられた。文春側を名誉毀損(きそん)で訴えた裁判では、損害賠償として計120万円の支払いを命じる判決が確定したが、セクハラについての記事の重要部分は真実と認定された。》(朝日新聞2019年7月10日)
あの裁判で重要視されたのがジャニー氏の証言だ。少年たちの性的虐待についての告白に対し、法廷で「彼たちはうその証言をしたということを、僕は明確には言い難いです」と述べていたのである。
ジャニー喜多川氏の訃報記事にも注目
いかがだろうか。ジャニー喜多川氏は法廷という公の場で性加害の否定をしていなかったのである。朝日新聞はこのことを喜多川氏の死去を伝える記事で書いていた。なら、もっと「影」(性加害)の部分について言及すればよかったのでは? という思いを当時抱いた。それが著名人の訃報を伝える記事の役割だろうと。しかし逆に、死去翌々日の天声人語は好意的な内容に終始した。
今回その理由を聞かれたら「光と影」の記事は読み落としていたというのである。信じられない。つまり天声人語を書いている人は朝日新聞を読んでいないということか?
念のために言っておくと新聞を一字一句全部読んでないのか、とツッコんでいるのではない。自分がその日に書く題材(ジャニー喜多川氏の死去)についての記事を読んでないのか? という驚きなのである。自社が喜多川氏について何を書いているか読むのは当然だろう。天声人語の筆者はそんな作業すらせずに書いていたようなのである。