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 ヒロイン・猪爪寅子は成績優秀だが、親に勧められたお見合いでは連敗続き。「女の幸せは結婚」という考え方に本人が納得していないため、どうしてもうまくいかない。

 あるとき、猪爪家に下宿する優三(仲野太賀)に弁当を届けるため、明律大学を訪ね、桂場等一郎(松山ケンイチ)の講義の「婚姻にある女性は無能力者」という言葉に、思わず反応してしまう。

 桂場は「結婚した女性は準禁治産者と同じように責任能力が制限される」と説明するが、納得がいかない。なぜなら、「無能力者」どころか、猪爪家ではお金まわりを含め、家のことは何でも母・はる(石田ゆり子)が責任を持ってやっていたからだ。

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母親役の石田ゆり子。名言「お黙んなさい!」が飛び出した場面 公式サイトより

『虎に翼』が朝ドラの中で異質なのは、母が娘の優秀さをわかっていると同時に、娘も母の優秀さを誰より知っていることだ。娘が母と衝突したり、母親の生き方を否定して自分の道を選ぶ朝ドラはときどきあるが、本作の場合、ヒロインは母の優秀さを理解しているからこそ、家庭では実権を握っていても公の場では「スンッ」と急に控え目になる母親に対して苛立ちを感じている。これは母親個人の問題ではなく、どの女性たちも家の外では「スンッ」とするしかない社会への苛立ちなのだ。

「幸せになるには、頭が悪い女のふりをするしかないの」

 そんな寅子に目を止めた大学教授が、寅子を大学の女子部法科に誘う。父親は賛成するが、母親が猛反対する。

 母親は自分が女学校に行きたくても行けず、本を読んで学んだこと、旅館を第一に考える母から離れたくて結婚したことを寅子に話し、「頭のいい女が確実に幸せになるには、頭が悪い女のふりをするしかないの」と教える。この場面はまるで“これまでの多くの朝ドラヒロインのようになれ”と言っているようにさえ見える。

「頭が悪い女のふりをする」のは母親が身に着けた処世術であり、寅子に傷ついてほしくないという気持ちは寅子にも伝わっているが、それでも納得がいかない。

 だが後日、「女性は無能力者」の講義をしていた判事が寅子の大学女子部進学に反対し、「時期尚早」「傷ついて泣いて逃げ出すのがオチだ」と決めつけたとき、そこにやって来た母親はついに怒りの声をあげた。

「そうやって女の可能性の目を潰してきたのは、どこの誰? 男たちでしょ!?」