「強く賢い女」を真正面から描く朝ドラが登場した。
1940年に日本初の女性弁護士となった三淵嘉子がモデルの『虎に翼』だ。主演は伊藤沙莉。脚本・吉田恵里香と尾崎裕和プロデューサーのコンビは、恋愛感情を持たない「アロマンティック・アセクシャル」の男女を描いたNHKよるドラ『恋せぬふたり』で話題になったが、『虎に翼』はそのハードルを軽々と越えてきた。
第1話の冒頭、終戦直後の東京で川べりに座って新聞を読みながら涙する主人公・猪爪寅子(伊藤)と、どこか疲れた様子の通行人たちが映し出される。そしてナレーションの尾野真千子が、日本国憲法第14条をゆっくりと力強く読み上げる。
「第十四条 すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」
『虎に翼』は、今以上に男女が不平等だった時代に、その中でも圧倒的な男社会だった「地獄」の法律の世界に飛び込んだ寅子が、違和感にぶつかりながらも人々の心の傷を癒す物語になっている。
朝ドラのヒロインは「お嫁さんにしたい」女性だった?
もともと朝ドラは1961年に主婦層を主なターゲットとして作られたが、「賢く強い女性」が主人公の作品は少数派だ。
典型的なヒロイン像は「明るく元気で健気で前向き(+ちょっとドジ)」で、主演も中肉中背+タヌキ顔の親しみやすい女性が多かった。
このヒロイン像は、今でもほとんど変わっていない。それには、「主婦層に親しまれ、愛されること」が理由として挙げられがちだが、実際には作り手の多くが男性だったことが大きく影響しているだろう。20年くらい前までは朝ドラやヒロインに言及するメディアには「お嫁さんにしたい」といった視点のものも多く、当時から「はて?」と思っていた。
そんな歴史の中でも、王道フォーマットから大きくはみ出し、女性視聴者を夢中にさせる「強く賢いヒロイン」が突然変異のように何度も現れてきた。