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仕事で成功する代わりに家庭や恋愛が破綻する、という呪い

 古くは、橋田寿賀子脚本の『おしん』(1983年)。「山形の貧農」「奉公」「大根飯」といった厳しい少女時代と「おしんのしんは、辛抱のしん」という言葉から、耐え忍ぶ女性の物語と思われがちだが、その実、おしんは控え目に見えて、すごく気が強かった。

 読み書き算盤、家事、裁縫、茶道、髪結いなど、学んだことを活かしてやがて商才を発揮していくデキる女なのだ。ただ社会的成功をおさめる一方で、家族はバラバラになり晩年は孤独になっていく。

 近年は少しずつ「強く賢い女性主人公」も増え、コシノ三姉妹の母・小篠綾子をモデルとした『カーネーション』(2011年度上半期)や、女性陶芸家が主人公の『スカーレット』(2019年度下半期)などがある。

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 どの作品も、「強く賢い女」は仕事で成功する代わりに家庭や恋愛が破綻する、という呪いが共通している(後に新しい家族や人間関係の形が構築されはするが)。

「あさが来た」は女性の強さを前面に出しつつも、プライベートが崩壊しなかった珍しいケース 公式サイトより

 主人公の強さと賢さが前面に出ながらも、私生活が破綻しなかった稀有な例が、『あさが来た』(2015年度下半期)だった。波瑠主演×大森美香脚本による同作では、大同生命の創業者・広岡浅子をモデルにした主人公あさは、夫に代わって家業を建て直し、銀行や生命保険会社を起業し、日本初の女子大学校の創設にも尽力する。夫もあさをサポートし、最後まで良好な関係を維持した。

 それでもドラマの中で、あさの一番の武器は「やらかい力」と表現される。

 力で男を圧倒したり、肩肘を張って対等に競うのではなく、いわゆる「女性ならではの勝ち方」で成功していく。脚本家・大森美香のバランス感覚によって、あさは男性からも女性からも好かれるヒロインになっている。しかし「女性らしさ」の枠の中に収まることが成功への道筋だと夫が教える図式には若干モヤモヤが残った。

「女性らしさ」の枠を飛び越え、対等なパートナーを得たヒロインは、作家の田辺聖子がモデルの『芋たこなんきん』(2006年度下半期)や2023年の『らんまん』など本当に少ない。

 しかし『虎に翼』は、そんな朝ドラの「男女平等」というジレンマに大きな一歩をもたらしそうだ。