NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』が放送を終了する。日本初の女性弁護士のひとりである三淵嘉子をモデルにした「佐田寅子(ともこ)」(演:伊藤沙莉)が主人公の物語。彼女の人生で出会ったいくつもの事件や社会的な出来事を、リアルに詳細に描いているのが視聴者を引きつけた。

 その多くは実際にあった事件や出来事で、裁判のシーンなどは、実際の判決文をそのまま生かしたケースも。そのいくつかを新聞記事や資料から振り返ってみよう。当時の新聞は見出しのみそのまま、本文は適宜現代文に手直しする。現代では差別語とされる表現も登場する。文中敬称は省略する。(全5回の5回目/はじめから読む)

『虎に翼』「寅子」のモデルで、日本で女性初の弁護士・判事・裁判所所長となった三淵嘉子さん ©時事通信社

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5. 「桂場」が最高裁長官として違憲判決を出した「尊属殺人重罰規定」のモデル

『虎に翼』で中盤に話題となり、最終盤のハイライトとなったのが尊属殺人の問題だ。父母ら直系尊属を殺害した場合、通常の殺人より重い死刑か無期懲役に処されることを規定した刑法200条(現在は削除)は戦後、新憲法が制定されてから合憲か違憲か、論議が続いていた。

 その判決には「寅子」の恩師「穂高重規」(演:小林薫、モデルは穂積重遠)と、「寅子」と常に微妙な関係だった「桂場等一郎」(演:松山ケンイチ、モデルは石田和外)と因縁があった。1950(昭和25)年10月12日付朝日社会面には2段で「“父殺し” 重刑は妥当」の見出しの記事がある。要約すると――。

NHK『虎に翼』公式Xより

 最高裁発足以来の問題といわれる尊属殺し重罰規定の憲法論争に関する判決が11日、大法廷で言い渡された。この日大法廷の検事席には佐藤藤佐・検事総長(1954年の造船疑獄の際、指揮権発動に遭う)自身が出席。傍聴席には判事、検事のほか、多数の学生の姿が見えた。判決は、尊属殺し重罰を規定した現行刑法は違憲ではなく、有効であるとして、同規定を封建的、反民主主義的だとした福岡地裁飯塚支部判決を破棄。事件を福岡地裁へ差し戻した。

穂積重遠が少数意見を出した尊属傷害致死事件の判決(朝日)

 事件は1949年10月、福岡県飯塚市で、普段から粗暴な父に盗みの疑いをかけられた息子が、投げつけられた鍋や鉄瓶を投げ返したところ、父の頭に当たって死亡させた尊属傷害致死=傷害致死にも重罰規定があった(現在は廃止)。判事15人のうち「合憲」の多数意見が13人、「違憲」の少数意見が2人で、その1人が穂積だった。