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性的暴行を受け5児を産んだ女性が実父を絞殺した事件が…

 15判事のうち、石田裁判長(最高裁長官)ら8人が「死刑、無期懲役だけの刑は不合理」という多数意見、6人が「重罰規定自体が憲法違反」の少数意見で、「合憲」判断は1人だけだった。この3件のうちの1件が、『虎に翼』で「轟太一」(演:戸塚純貴)と「山田よね」(演:土居志央梨)の事務所を手伝っていて「寅子」とも面識がある「斧ケ岳美位子」(演:石橋菜津美)のモデルとなった事件だった。

ドラマで、実の父親を殺害し尊属殺人罪に問われていた「斧ケ岳美位子」(左)と「寅子」(NHK『虎に翼』公式Xより)
のちに最高裁で重罰規定違憲判決が出る、「栃木実父殺人事件」を報じた実際の紙面(下野新聞)

 1968(昭和43)年10月、栃木県で14歳の時から15年間にわたって実父から性的暴行を受け、5人の子どもを産んだ次女が、恋人との結婚を反対されて監禁されたことから、実父を絞殺した。一審は尊属殺人罪そのものを違憲と判断。殺人罪だが過剰防衛に当たるとして刑を免除する判決。しかし二審では合憲判断の下、一審判決を破棄して懲役3年6月の実刑を言い渡した。裁判は最高裁に持ち込まれ、この日、懲役2年6月、執行猶予3年の刑が確定した。

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 実は実際の三淵嘉子もよく似た事件と接触していた。『追想のひと三淵嘉子』で内藤頼博はこう書いている。

 三淵さんが東京家庭裁判所で少年事件を担当しておられた時のこと、「きょうは審判廷で泣いてしまった。恥ずかしかったけれど、どうにも涙が抑えきれなかった……」と言われたことがある。それは親殺しの事件だった。実の父親に肉体関係を強要されていた少女が、ようやく得た恋人との結婚を妨害されて、思い余って実父を殺してしまったという事件であった。三淵さんは、親殺しにまで追い詰められた少女の心情の哀れを涙なしには聞くことができなかったのである。