NHK連続テレビ小説『虎に翼』が最終回を迎える。日本初の女性弁護士のひとりである三淵嘉子をモデルにした「佐田寅子(ともこ)」(演:伊藤沙莉)が主人公の物語。彼女の人生で出会ったいくつもの事件や社会的な出来事を、リアルに詳細に描いているのが視聴者を引きつけた。

 その多くは実際にあった事件や出来事で、裁判のシーンなどは、実際の判決文をそのまま生かしたケースも。そのいくつかを新聞記事や資料から振り返ってみよう。当時の新聞は見出しのみそのまま、本文は適宜現代文に手直しする。現代では差別語とされる表現も登場する。文中敬称は省略する。(全5回の1回目/続きを読む)

伊藤沙莉が演じる主人公・寅子(NHK公式サイトより)

1. 1934(昭和9)年「帝人事件」:「寅子」の父「直言」が連座した「共亜事件」のモデル

 ドラマでは、「寅子」の父の銀行員「直言」(演:岡部たかし)が「共亜事件」という贈収賄事件に巻き込まれて裁判の被告に。最後は母が毎日つけていた日記からアリバイが立証されて無罪となる。

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裁判の被告となった「寅子」の父「直言」(NHK『虎に翼』公式Xより)

 その部分はフィクションだが、事件には、戦前昭和の政財界を揺るがせ、内閣崩壊にまで至らせた「帝人事件」というモデルがあったと考えられる。

戦前の5大新聞のひとつ・時事新報が激しく糾弾

 1934(昭和9)年1月17日付時事新報はこう激しく糾弾する記事を載せた。

「番町會(会)」を暴く 大森山人 和製タマニー(1) 利権屋の暗躍振(ぶ)り
 

 何が目覚ましいといって、近頃番町会の暗躍ぐらい目覚ましいものはない。むしろ、すさまじいと言った方がよかろう。いや、すさまじいでもまだ足らぬ。全く戦慄に値するものがある。実際経済社会では、最近この一派の猛烈な暗躍に非常な戦慄を感じている者が少なくない。とりわけ、その一派の副総理格である中嶋君が商工大臣になってから、この一派の暗躍は悪化した。実は、中嶋君が商工大臣になったそのことが、既にこの一派の暗躍の結果だという。中嶋君が商工大臣の名刺を振り回し、野に物凄い面々が腕っぷしをさすって、上下挟み撃ちで経済界を攪乱するのであるからたまったものではない。 

*タマニー=18世紀後半に始まったアメリカ・ニューヨーク市の民主党の派閥。市政府を支配し、私物化したとされる
*中嶋君=古河電工社長などから当時の斎藤実内閣の商工大臣(現経産相)になっていた中嶋久萬吉のこと

「番町会」とは郷を取り巻く新進財界人の集まりで、彼の住居の地名から名付けられた。『日本近現代史辞典』にも郷に関して「このころ(大正中期)より、側近の実業家による『番町会』を開催する」と書かれている。