NHK連続テレビ小説『虎に翼』が最終回を迎える。日本初の女性弁護士のひとりである三淵嘉子をモデルにした「佐田寅子」(演:伊藤沙莉)が主人公の物語。彼女の人生で出会ったいくつもの事件や社会的な出来事を、リアルに詳細に描いているのが視聴者を引きつけた。
その多くは実際にあった事件や出来事で、裁判のシーンなどは、実際の判決文をそのまま生かしたケースも。そのいくつかを新聞記事や資料から振り返ってみよう。当時の新聞は見出しのみそのまま、本文は適宜現代文に手直しする。現代では差別語とされる表現も登場する。文中敬称は省略する。(全5回の4回目/はじめから読む)
(「『原爆裁判』ー『虎に翼』の事件史#3」より続く)
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『虎に翼』では、顔にケロイドのある吉田ミキ(演:入山法子)という被爆者が登場。「昔はきれいだと言われたのよ」と言う。法廷には出廷せず、手記が「轟太一」(演:戸塚純貴)によって代読されるが、その人物像は実際の原告の1人、多田マキ子が原爆被害者の手記編纂委員会編『原爆に生きて』(1953年)に寄せた「夫はかえらない」という手記に基づくものと思われる。手記は被爆当時のことをこう回想する。
「天が落ちたかと思いました」
警戒警報は解除になっているのに、飛行機が飛んでいるので、その方を見ながら歩いていたので、光った途端には、ペンキをどろっと溶いたものを投げられたような気がして、天が落ちたかと思いました。その瞬間に顔から肩からへそまで焼けていたのです。長男は三輪車に乗って私の後ろにいたので、私ほどひどくはやられなかったようです。辺りが真っ暗になったから、手探りでよその軒下にはい寄り、子どもを私の腹の下へ入れて、子どもの耳を私のひじで押さえ、自分の耳を両手で押さえ、四つんばいになって夫を呼びました。子どもは「熱いよ、熱いよ」と泣きました。気がついてみたら、辺りは白けて爆風が飛んでいました。
背骨や骨盤の所が石でたたきつけられたほど、ひどく痛かった。主人が「早う着物を脱げ、燃えているぞ」と言いました。着物ばかりでなく、体が青く燃えて、上着は左の袖がちょっと引っかかっていただけで、肩からぼっそり落ちました。国防色(カーキ色)のズボンをはいていたけれど、やけどをしなかったのはズロース(女性の下着)をはいていた所だけで、足も手も燃えていたのに気がつかなかったのです。子どもも胸の辺りから肩にかけて黄色になって、皮膚がぼろぼろに下がりました。