1ページ目から読む
2/4ページ目

 穂積の論旨は「尊属殺にも重軽各様の情状があり得る。いやしくも親と名のつく者を殺すとは、憎みても余りある場合が多いと同時に、親を殺し、親が殺されるに至るのは言うに言われぬよくよくの事情で、一掬の(わずかな)涙を注がねばならぬ場合もまれではあるまい。刑法が旧刑法を改正して、せっかく殺人罪に対する量刑の幅を広くしたのに、尊属殺についてのみ、古い枠をそのままにしたのでは、立法として筋が通らず、実益がないのみならず、量刑上も不便である」という内容。平等を定めた憲法14条を尊重し、法律万能思想を排する考え方だった。

NHK『虎に翼』公式Xより

 野村二郎『最高裁全裁判官 人と判決』(1986年)は「理解しやすい意見で、共感を示す人が多かった」と評価している。最高裁大法廷は、2週間後の10月25日にも、別の尊属殺人事件で同趣旨の判断を踏襲した。ドラマで「穂高」はこの判決の結果を悔しがっていたが、実際の穂積も同じだっただろう。最高裁判事在任中、1951(昭和26)年の元日に病に倒れ、7月に死去する。

穂積重遠(国立国会図書館「近代日本人の肖像」

23年後、「尊属殺人」に初の違憲判決

ADVERTISEMENT

 その判決から23年。最高裁は尊属殺人重罰規定について新たな判例を示す。1973(昭和48)年4月4日付朝日夕刊トップ「最高裁、初の違憲判決 『尊属殺重罰』の判例変更 親殺し三件、減刑 『法の下の平等』に違反」の記事のリード部分を見る。

松山ケンイチ演じる「桂場」のモデルとなった石田和外長官(裁判長)の最高裁が、尊属殺人重罰規定を違憲とする判決を下した(朝日)

 親殺しに特に重罰を科している「尊属殺人罪」(刑法200条)の規定が、「法の下の平等」を定めた憲法14条に違反しないかどうかをめぐって争われていた3件の親殺し事件(1件は未遂)で、最高裁大法廷(石田和外裁判長)は4日午前10時、「尊属に対する尊崇報恩は社会生活上の基本的道徳だが、刑法200条の法定刑は死刑と無期だけであって極端に重く、合理的根拠に基づく差別とは言えず、憲法14条1項に違反し、無効である」と「違憲」判断を下した。
 

 いずれも実刑の原判決を破棄し、3被告にそれぞれ殺人罪(刑法199条)で二審より軽い懲役2年~2年6月(うち2人は執行猶予3年)の判決を言い渡した。最高裁が憲法81条に定められた「違憲立法審査権」に基づいて現行法の規定を「違憲」としたのは(昭和)22年の発足以来初めて。この判決により、「尊属殺」の規定は、自動的に機能が停止されることになった。最高裁は25年10月、当時の大法廷の判決で「尊属殺」について「合憲」の判断を下しており、22年余ぶりの判例変更である。