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「こんな髪では合コンなんて行けない…」崖っぷち男・薄井秀夫が葛藤の末にたどり着いた、"当たり前"の結論とは?

「こんな髪では合コンなんて行けない…」崖っぷち男・薄井秀夫が葛藤の末にたどり着いた、"当たり前"の結論とは?

薄井秀夫のAGA日記#1

2024/06/28
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「最近、髪が減ってきたかも……」自分の髪に不安を覚えると、つい他人の頭頂部まで気になったりしませんか? でもそんなこと、うっかり口に出しては言えない。今朝、電車であなたの前に座っていた男性も、実は眠れないほど悩んでいるかもしれない――これはそんなある男の物語。20年前の常識で「薄毛は生活習慣のせい」とあきらめているあなたには、目からウロコの話かも……?

合コンに行きたくない……薄井秀夫の悩み 

 薄井秀夫は悩んでいた。地元のIT企業に入って数年、責任のある仕事をまかされ後輩を育てる立場になり、一見すると順風満帆。しかし私生活では不毛な日々が続いていた。

 定時で仕事を切り上げて自宅へ戻り、誰もいない部屋の明かりをつける。一人暮らしが続き、気がつけばそろそろ三十路が近づいてきた。実家の両親からは結婚はまだかとせっつかれているものの、そもそも恋人がいない状況ではどうしようもない。

 薄井はアパートの洗面台の前に立ち、鏡に映った自分の頭部を凝視する。

「認めたくないものだな、自分自身の髪の薄さというものを」

 ネットで見かけたアニメの台詞をつぶやいて後悔する。やはり頭頂部が薄くなっているし、額も心なしか広くなっている。今夜は親友の黒井が久しぶりにセッティングしてくれた合コンだ。着ていく服は決めているが、髪はどうしたものだろうか。

「やっぱりオレ、老けて見えるよな……」

 今晩のために明日はわざわざ有給休暇まで取ったのだ、何としても成功させたい。ため息とともに彼女がいない年数を数える。髪だけが理由ではないだろうけれど、髪がふさふさならうまくいっているのでは、と考えてしまう。

 頭をそろりとなでる。いったい何が原因なのだろう……コンビニ弁当ばかり食べていることか、缶酎ハイの飲み過ぎか。ゲームをしてついつい夜更かしをするのもまずい気がするし、もしかしたら取引先の無理難題で髪の寿命が縮まっているのかもしれない……。

 スマートフォンを取り出し、薄毛について検索する。藁にもすがる思いで情報を探す目に飛び込んでくるのは、薄毛の別名“AGA”に、ミノキシジルという薬の名前……つぎつぎとページを見ていくうちに、育毛剤や薬品の広告までもが大量に表示されはじめた。

「もう、どうすればいいのか分からないよ!」

 身支度をする気も失せて涙目でうずくまっていると、合コンをセッティングしてくれた黒井からメッセージが届いた。

 ――返事ぐらいしろ。おまえ、また髪のことで悩んでるのか?

 ――なぜ分かる?

 ――いや、お前、合コンのたびに愚痴っているじゃないか。

 ――どうすればいいと思う?

 そういえば黒井も一時期髪が減っていたが、今では持ち直している。何か秘訣があるのかもしれないと思い聞いてみると、そっけない一言とともにURLが送られてきた。

 ――医者行け。

 画面に表示されたリンクを半信半疑でタップする。今日の合コンには間に合わなくても、次の合コンまでには何とかしたい。薄井はずっと悩み続けている薄毛について、専門家へ相談することを決めた――。

 友人の黒井に教えられて、AGA(男性型脱毛症)を専門に治療している医療機関「銀クリ」(銀座総合美容クリニック)の門をたたいた薄井は、まず睡眠、ストレス、食事、お酒、煙草といった「薄毛の原因」について聞いてみることにした。

睡眠不足、ストレス、食事は本当にAGAの原因なのか?

「AGAに悩んでいる人はさまざまな原因を探してしまうものです。生活習慣は多くの人が考えることだと思います。結論から言うと、食事も、お酒も、煙草も、睡眠も、ストレスも無関係です。AGAが発生するかは体質によります」

 なんと、これまで考えてきた「原因」は無関係だったのか……? 年代を問わず、多くの男性が多かれ少なかれ悩んでいる薄毛(AGA)。しかし考えてみると、その原因や仕組みをちゃんと知っている人はどのくらいいるだろうか? 知らなければ進行を食い止めることも、状態を改善することもできない。

「まずは正常な髪の抜け替わりの仕組みについてお話ししますね。人間の髪の毛はおよそ10万本あります。そして1日あたり100本ほどが生えかわります。この髪の毛がそれぞればらばらのタイミングで生えかわることで、髪の量が保たれています。

 ではどのようにして髪が入れ替わるのかというと、それぞれの髪の毛に毛周期(ヘアサイクル)というものがあり、生えて伸びて抜けるのをくり返しています。

 毛周期のはじまりではまず新しい産毛が誕生します。次の成長期では、髪は速やかに太くなり、2~6年程度の寿命のもと太く伸び続けます。成長期が終わると休止期になり、3ヶ月くらいの間に寿命を終えて髪は抜けていく。抜け落ちた場所からは新しい産毛が生えてきて、また成長期が始まるんです」

髪の毛1本の寿命は2~6年。100歳生きても余裕なはずが…

「AGAでは、本来は2~6年ある成長期が、数ヶ月から1年程度と非常に短くなります。そうなると育ちきる前に休止期になって抜けてしまい、細く短い髪になります」

 症状はそれだけではない。人間の髪の毛が生えかわる回数は一生のうちで40~50回ほどと決まっている。この回数は正常な毛周期なら100歳まで生きても十分な長さである。しかし成長期が数ヶ月になってしまうと、あっという間に50回の寿命を使い切ってしまい、頭は薄くなってしまう。では、なぜこのようなAGAが起きてしまうのか。

「成長期が短くなる現象には男性ホルモンが関係しています。男性ホルモンが酵素の働きで髪にとっての悪玉男性ホルモンに変わると、まだ成長期の髪に生えかわりをうながしたり、毛根を萎縮させたりして髪の成長期を短くしてしまいます。

 悪玉男性ホルモンの影響は、頭全体でも受けやすい場所と受けにくい場所があります。頭頂部と前頭部は、ホルモンに対する受容体が集中するため薄毛になりやすいですが、側頭部や後頭部は影響を受けないため薄くなりません。街を歩いている薄毛の方の多くが横と後ろが薄くなっていないことからも薄毛の原因の多くがAGAだといえますし、食事やストレスが原因でないという根拠となるでしょう」

 AndroGenetic Alopecia(アンドロジェネティック・アロペシア=男性型脱毛症)、略してAGA。オレの髪が抜けるか抜けないかは、オレのせいではない、男性ホルモンに支配されていると言っても過言ではないのだ。コンビニ弁当や夜更かしは、あまり関係なかったのだ……! 薄井秀夫は目からウロコが落ちる思いだった。