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思いを込めたお金の循環
寄付が、社会を変えるチカラになる

個人が死んだ後に、遺言書などに基づいて行われる「遺贈寄付」。人生の集大成として誇りに思える寄付として、いま少しずつ広がりを見せている。遺贈寄付の現状や実践方法について、全国レガシーギフト協会事務局長の小川愛さんに話を聞いた。

【この人に聞きました!】
一般社団法人
​全国レガシーギフト協会
事務局長
日本ファンドレイジング協会
事務局長
小川 愛さん
【この人に聞きました!】
一般社団法人
​全国レガシーギフト協会
事務局長
日本ファンドレイジング協会
事務局長
小川 愛さん

――最近、雑誌やテレビで「遺贈寄付」という言葉を見聞きする機会が増えてきました。遺贈寄付に関する考え方に変化が生じているのでしょうか。

小川 東日本大震災を契機に、日本でも寄付に積極的な考えの方が増えています。『寄付白書2021』のデータを見ると、東日本大震災以前は寄付をする人の割合は35%程度だったのですが、震災以降は約45%前後の方々が寄付をするようになりました。寄付をしてNPOや慈善団体と交流を持っていると、自然と遺贈寄付にも結びつきやすくなります。また、世代別の遺贈寄付の意向をみると、全世代平均で42.4%の方が遺贈寄付に前向きな考えを持っていることがわかります。特に20代、30代の若い世代が、社会課題に高い関心を持っている様子がうかがえます。

――全世代平均で4割の方が遺贈寄付に関心を寄せているというのは驚きですね。実際に、遺贈寄付件数の増加にもつながっているのですか。

小川 遺贈寄付はその実数をとらえるのが難しいのですが、国税庁へ相続税申告された相続財産からの寄付に限定すると、2015年から少しずつ増加しています。また終活の意識の高まりに伴いメディアで取り上げられる機会も増え、遺贈寄付の認知度が上がってきていると感じます。ただ、まだ遺贈寄付がみなさんにとって身近な選択肢になったとは言えません。ご自身の葬儀やお墓について考えるのと同じように「遺贈寄付はどうしようかな」と自然と思い浮かぶ。それが、私たちの理想です。現在、日本では年間50兆円が相続されていると言われています。その1%でも寄付にまわれば、社会課題の解決はぐっと前に進むはずです。

――遺贈寄付は富裕層の人が行うものというイメージがあります。現場では少額の遺贈寄付もありますか。

小川 もちろんです。これから遺贈寄付が当たり前の選択肢になれば、少額の遺贈寄付もどんどん広がっていくでしょう。また遺贈寄付の効果は資金面での援助にとどまりません。昨年国立科学博物館がクラウドファンディングでおよそ9億円を集めたことが話題になりましたが、担当の方は「金額の多寡にかかわらず、こんなにも大勢の方が博物館を応援しようと寄付を寄せてくださったという事実が何よりも励みになった」とお話されていました。活動の意義を理解し、応援してくれる人がいるという事実そのものが、困難に向き合う大きなチカラになるのです。

――遺贈寄付をされるのは、どんな方が多いのでしょうか。

小川 私たちの団体では、遺言書や信託を活用したご本人による寄付と、相続財産からご遺族が行う寄付の両方を遺贈寄付と定義しています。ご本人による寄付の場合、おひとりさまやお子様のいないご夫婦の方が比較的多いですね。亡くなったときに、遠方の疎遠な親族に相続される、あるいは相続人がいない状態で亡くなり財産の所有権が国にうつるよりも、自分の意思で世の中をより良くするために遺贈寄付をしたいと遺言書や信託を準備されています。一方で社会貢献に関心があっても、遺言書を作成するのはハードルが高いという方も結構いらっしゃいます。そこで遺言書はなくとも思いを受け継いだ相続人が、ご本人に代わって相続財産から寄付をするというケースも少なくありません。特に近年は長寿化の影響で、財産を受け継いだ相続人も高齢の「老老相続」が増えています。自分のためにもお金を使い、最後に残った財産は社会を良くするために使いたいという方も多く、遺贈寄付がその受け皿になっています。

――遺言書や遺贈寄付がもっと身近になるといいですね。

小川 海外では、必要な項目を入力すると自動で遺言書の雛形ができるオンライン遺言書作成サービスなども出てきています。日本でも、遺言書を作りたい、遺贈寄付をしたいという思いがスムーズに実現できるような仕組みが望まれます。全国レガシーギフト協会では弁護士や司法書士といった専門家との連携を強化するほか、終活事業者の方とも協力し、遺贈寄付につながる場所を増やしていこうと取り組んでいきます。未来への思いを込めて財産を託すあたたかな遺贈寄付を、もっと広げていきたいですね。