「自分はとんでもない女と関わってしまったのかもしれない…」

 軽はずみで38歳のシングルマザーと交際した、16歳の少年。しかし深く付き合っていくうちに恐怖心を覚え、やがて2人の関係は“最悪の結末”へ加速してしまう…。2005年岐阜県で起きた事件の顛末を、ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 女の性犯罪事件簿』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。なお本書の登場人物はすべて仮名であり、情報は初出誌掲載当時のものである。(全2回の2回目/最初から読む

写真はイメージ ©getty

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「お前の子供を妊娠した。50万円払え」と脅迫

 これほど問題のある相手とは、A君も思っていなかったのだろう。A君は七恵に連れられてよくゲームセンターに行っていたが、そこで出会うヤンキーや暴走族風の若者に「姉さん」と呼ばれているのを見て、ギョッとなった。七恵としては札付きの少年たちに慕われ、乱暴な言葉づかいで従わせている姿を見せて一目置いてもらいたかったようだが、A君はそうは考えなかった。

「自分はとんでもない女と関わってしまったのかもしれない…」

 A君が逃げ出そうとすると、七恵の長男に見つかり、「うちの母ちゃんから逃げ出そうとしたら、ひどい目に遭うぞ」と脅された。それでも我慢の限界だった。A君は来たときと同じようにカバン一つだけを持って、実家に逃げ帰った。

 これで激怒したのが七恵だ。「今すぐ戻ってこい」と言っても聞かないので、「お前の子供を妊娠した。50万円払え」とウソの電話をかけて脅迫した。

 A君はたまらず父親に相談した。そこから警察に通報し、今回の事件が発覚した。七恵は「少年は18歳以上だと思っていた」と言い訳したが、このウソは簡単に見破られた。この事件で分かっていることはここまでだ。

 その後、管轄の簡裁に公判の日時の問い合わせの電話をかけたが、「該当者がいない」という返事だった。こうした場合、示談によって不起訴になった可能性が高い。あるいは起訴事実をすべて認めていた場合、「略式起訴」になって、公判は開かれず、罰金のみを支払うという「略式命令」が出る。こうした場合も、裁判所は「該当者がいない」という返事をする。

 考えてみれば、新聞報道で辱めを受けた女が、あえて「事実誤認がある」と公判に持ち込み、そこで2人の関係をぶちまけるなんて、いまだ寡聞にして知らない。よって、ほとんどの逆淫行事件は罰金刑で終わる。

 今回の事件だってA君と七恵が18日間の同棲生活で何があったのか、肝心なところは何も分からない。おそらく何らかの会話があり、淫行に流れる手順もあっただろう。それが謎なのだ。

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 取材記者は事件という囲いの中の世界を覗き見て、たまたま目に入った光景を書いているに過ぎない。かつてその中にいたという人を見つけ出して話を聞き、なるだけディテールを浮かび上がらせようとするが、できるのはそこまでだ。当事者が握っている情報にはかなわない。

 その後も逆淫行事件は多発している。しかし、いつも同じ理由から取材は難しく、いつしか人々の記憶からも忘れられていく。そもそも被害に遭った男が警察に届け出るケースは極端に少なく、表面化した事件はその一部に過ぎない。