「自殺だけは絶対にない」
加えて、野﨑氏は直後に重要なイベントを控えていた。野﨑氏が死亡する18日前の5月6日。愛犬のイブが老衰死した。彼が「全財産を遺す」と公言するほど溺愛した雌のミニチュアダックスフントだ。ほどなく野﨑氏は、南紀白浜の高級リゾートホテルにて「イブのお別れ会」を企画。6月11日の開催に向け、手あたり次第に参加者を募っていたところだった。
都内に住む知人の一人も、改めてこう証言する。
「死亡当日の午前9時頃、社長から連絡がありました。イブのお別れパーティーに必ず参加して欲しいと念押しする内容です。会を盛大にしたいらしく、『旅費や宿泊費は全額負担するから知り合いがいたら何人でも連れてきてくれ』と。社長はせっかちでしたから、その日の午後2時頃にもまた『他の参加者は見つかりましたか』と電話があり、これが社長との最後の会話になりました。自殺だけは絶対にないと思います」
結局、最後まで否定し切れないのが、覚醒剤を“凶器”とした他殺の線なのだ。捜査関係者が振り返る。
「覚醒剤成分は野﨑氏の胃と血液から検出されている。腕などには注射痕がなく、経口摂取。その場合、致死量はおよそ1グラムで、胃の中には固形物がほとんど残っていなかったため、野﨑氏が普段飲んでいたビールなどに混ぜ込んだか、カプセル剤などにして飲み込んだか。いずれにしても、覚醒剤の摂取方法としてはまず考えられず、野﨑氏の死に疑念が生まれたのはこれがきっかけだった。毛髪を調べても、常習性を裏付ける結果は出ていない。覚醒剤を入手し得る第三者が野﨑氏の死に関与した可能性は極めて高かった」
だが、容疑者を絞り込むには膨大な時間が必要だった。野﨑氏の債務者は全国に1000人以上いたほか、同氏の無軌道な女性遍歴も加わって、捜査の対象は際限なく広がった。
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本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(石垣篤志「紀州のドン・ファン怪死 『十三億円遺言書』の真贋」)。
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【紀州のドン・ファン怪死】「十三億円遺言書」の真贋 石垣篤志
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2021年6月号
2021年5月10日 発売
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