2004年9月に福岡県大牟田市で発生した「大牟田連続4人殺人事件」。4人殺害の実行犯が塀の中で求めた関係とは――。ノンフィクションライター・小野一光氏による「私はなぜ死刑囚の養子になったか」(「文藝春秋」2023年2月号)の一部を転載します。
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現在、死刑囚という立場にある人物が、養子縁組をした親族との“外部交通”を妨害されたとして、国を相手どった裁判を起こしている。
原告の名は「C(原文実名)孝紘」。このCは、彼が養子となった相手の苗字。旧姓は北村であり、事件発生時の氏名は北村孝紘だった。
孝紘は04年9月に福岡県大牟田市で発生した「大牟田連続4人殺人事件」の犯人の1人で、確定死刑囚として福岡拘置所に収容されている。
この「大牟田連続4人殺人事件」は、暴力団「北村組」を率いる北村家の父、それに母、長男、次男という家族4人で、知人母子3人と息子の友人の計4人を殺害し、全員に死刑判決が下されたという、前例のない特異な事件だ。北村家の次男である孝紘は、犯行当時20歳3カ月で、被害者4人全員を自らの手で殺めた実行犯。私は一審判決前から孝紘と面会をするようになり、長年にわたって交流を続けてきた。
孝紘の死刑が確定したのは11年10月。死刑が確定すると、基本的に親族や一部の弁護士を除く第三者とは、面会や手紙のやりとりといった“外部交通”が制限される。そのため、確定前は頻繁に面会や手紙のやり取りをしていた私も、確定後は彼との一切の交通を絶たれている。
その孝紘が、国家賠償等請求事件として、国を訴えたのだ。
請求の原因として挙げられたのは、彼がこれまでに養子縁組を行った3人の“親族”に対する信書の発信が認められなかったこと。
20年7月27日に福岡地方裁判所に提出された訴状では、福岡県弁護士会の「人権擁護委員会」と「刑事弁護等委員会」から10人(現在は11人)の弁護士が、原告訴訟代理人として名乗りを上げた。つまり福岡県弁護士会が死刑囚の孝紘に対する「信書発信制限」は違法だと問題視し、協力しているのである。
同弁護団に結成の理由を尋ねると、次の回答が返ってきた。
「死刑確定者には『親族』との間で手紙をやり取りする権利が認められており、養親と養子は『親族』です。したがって、死刑確定者とその養親ないし養子との手紙のやり取りは許されなければなりません。拘置所が、死刑確定者に対してその養親・養子との交流を一方的に妨げるのは問題であると考えています」
現在この国家賠償等請求訴訟は継続中で、いまのところ準備書面が交わされた段階である。判決が出るまでには数年を要するという。