――その日に会っていたら戒厳令の相談をされたかもしれませんね。
武田 どうだったでしょう。ただ「慰労会をする」と言うくらいですから、少なくとも私に連絡をくれた11月上旬の時点では、戒厳令は考えていなかったと思うんです。
なぜ大統領は踏み切った?
――そもそもなぜ、尹大統領は戒厳令に踏み切ったのでしょうか。
尹 「暴走する野党に対する警告のための戒厳」だったと主張していますが、直前まで秘書室長も国家安全保障室長も警護室長も知りませんでした。軍の高官を含め、わずか4、5人の判断で突っ走ったのは、さすがに理解に苦しみます。韓国では今、先進国の仲間入りをして、G7に加入したいという希望が高まっている。それなのに戒厳令を出してしまったことで、世界に昔の軍部独裁が残っているイメージを与えたのは大きなマイナスでした。
――戒厳令の背景として、与党・国民の力が惨敗した昨年4月の総選挙で不正が行われたとする陰謀論を尹大統領が信じていたという指摘もありますね。実際、国会だけでなく、中央選挙管理委員会の庁舎にも戒厳軍を送りました。
尹 私はそこまで大統領が不正選挙疑惑にこだわっていたという認識は持っていません。そうした見方の背景には、おそらくアメリカのトランプ大統領が、2020年の大統領選の不正を主張したこともあるのでしょう。選管には様々な問題があることは確かですが、選挙結果が変わるような不正があったというのは、信じがたい話です。
武田 さすがにそれはないでしょうね。この表現が的確かは分かりませんが、大統領は一言でいうと「ブチギレた」のだと思います。国家運営を担う重要な人材が、野党による弾劾でどんどんいなくなってしまう。あまりに理不尽な仕打ちで、「いい加減にしろ」という思いが限界を超えたのではないでしょうか。
(司会・構成 青山和弘)
※本記事の全文(約9300字)は、、月刊文藝春秋のウェブメディア「文藝春秋PLUS」と、「文藝春秋」2025年4月号に掲載されています(尹徳敏×武田良太「尹大統領を擁護する」)。全文では下記の内容をお読みいただけます。

