自ら命を絶った人々が、批判されることへの怒り
チェクが自らの感情をダイレクトに反映したのは、そのような環境で、自ら命を絶った人々が批判されることへの怒りだった。
「あるとき自殺のニュースを見て、亡くなった人が批判されていることに腹が立ちました。記事の見出しに、“自殺の原因は恋人と口論したからだ”と書いてあれば、人々は“なんてバカなんだ、どうして恋愛ごときで死ぬんだ”などと言う。しかし、その人たちは本人の近くにいたわけではないし、近くにいた人たちでさえ本当は知らないことがある。人間はとても複雑で、死を選ぶ理由もさまざまなはずです」
ドビュッシーの『夢想』が繰り返し流れる
シリアスかつハードな物語だが、穏やかな劇伴が全編を貫く。少年時代のチェン兄弟がピアノを習っていることから過去パートではピアノが、現在パートではシンセサイザーが使用され、2つのスタイルがゆるやかに融合してゆく構造だ。
とりわけ強い印象を残すのが、繰り返し流れるドビュッシーの『夢想(Rêverie)』だ。もともと脚本の執筆中、チェク自身がドビュッシーを聴いていたことがきっかけのひとつ。「ドビュッシーの音楽は、いつも私をプレッシャーから解放してくれる」という。
「最初は『月の光』を使うつもりでしたが、脚本を書くうちに、この物語には『夢想』がふさわしいと思いました。家族に認められたいという少年の夢、そして眠りながら見る家族の夢を象徴してくれるのではないかと。本作の作曲家に、“ピアノが上手なら10歳でも弾けますか?”と聞いたら、“弾ける”というので、やはりこの曲がいいと決めました。とても美しい音楽ですが、うまく演奏できない少年にとっては悪夢そのもの。彼は二度とこの曲を素直に聴けないのかもしれないと思うと、つらい気持ちになりました」

