あえて95分の上映時間に収めた

 その気になればどれだけでも時間を費やして描けるテーマとストーリーを、チェクは95分の上映時間に収めた。当初から「90分くらいにしたい、2時間は長すぎる」と感じていたという。

「最初の編集版は135分くらいで、我ながら長すぎると思いました。憂鬱すぎたし、悲しすぎたんです。プロデューサーに教わったのは、『要素が多すぎると何も見えなくなる。素材を慎重に選び、要点だけをつなげ』ということ。多くの監督たちがたくさんの映像を撮影し、あらゆる可能性を大切にするあまり、うまくカットできずに映画が長くなりすぎてしまうというんです。そこで、どれだけ時間や予算をかけたシーンでも、どれだけ気に入った場面でも、うまく合わないものはカットすべきだと肝に銘じました」

「最初で最後の監督作になるかもしれない。」

 取材のなかで、チェクは「これが最初で最後の監督作になるかもしれない。だからこそ、自分にとって本当に大切なことを書き、大切なもので構成した映画にしたかった」と語った。そして完成した映画は、胸を張ってそう言い切れる映画になったのだ。

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 もっとも『年少日記』を観たあとは、チェクが次に撮る映画もきっと観たくなるだろう。現在準備中だという新作について尋ねると、「今回の映画とはまったく違う作品です。ファンタジーや神話、SFの要素に加え、アクションもあり、サイコスリラーでもある……A24風の映画になります」と教えてくれた。

 香港映画界に登場した新たな才能が放つデビュー作『年少日記』。切実な社会性とエンターテインメント性を融合させた鮮やかな手腕を、ぜひ映画館で確かめてほしい。

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