ライアン小川――君の名は希望
しかし、「七夕の惨劇」に象徴される、屈辱まみれの2017年はすでに過去のものだ。「2018年」という新しいシーズンがやってきた。交流戦勝率1位という栄誉とともに、ペナントレースを戦っているヤクルトナイン。僕らファンも、気持ちを切り替えて応援するのみだ。僕らができることは、ただ見守ることだけかもしれない。でも、何もできずにそばにいる。それでもいいじゃないか。
……そんなことを考えていたところ、神のいたずらなのか、今年の七夕もまたライアンが登板することになった。まさかのシンクロニシティ。場所はナゴヤドームだけど。ちなみにこの日の神宮球場は、乃木坂46による真夏の全国ツアーで大盛り上がりだったらしい。しかし、僕の衝動はライアンにある。ライアン、君の名は希望。リベンジのときはきた! 僕は「あの日のボール」を改めて取り出し、そしてテレビの前で固唾を呑んだ。
この日のライアンは絶好調だった。6回まで、ほぼ完ぺきな投球で、ドラゴンズ打線を無失点に抑えた。僕は確信していた。いつかできるから今日できる。……しかし、必死のピッチングもむなしく、味方の援護がないまま、7回に1点を失って、ライアンは敗戦投手となってしまった。無念である。でも、昨年の七夕と比べればずっと希望の持てる敗戦だったのは間違いない。ちなみに、今年も含めた過去10年間の「七夕対戦」の結果は次の通り。
2009年……対中日 ●1対12
2010年……対阪神 ●2対3
2011年……対巨人 ○3対2
2012年……対広島 ●4対9
2013年……対中日 ○5対3
2014年……ゲームなし
2015年……対巨人 ●4対5
2016年……対横浜 ●3対5
2017年……対広島 ●8対9
2018年……対中日 ●0対3
なんと、過去10年で9試合を戦って、2勝7敗という散々な成績だった。誰か、僕に悲しみの忘れ方を教えてほしい。
僕はライアン小川にインタビューをしたことはない。だから、彼が長澤まさみや綾瀬はるかが好きだということも、野球以外のスポーツでは大相撲に夢中になっているということも、意外にもかなりの読書家で、ミステリーであれば東野圭吾の『マスカレード・ホテル』、エッセイであれば伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』、吉田松陰の『覚悟の磨き方』を愛読しているということも、よく知らない。だからこそ、ぜひ、いつか彼にインタビューをしたい。そして、「あの日のボール」を片手に、あの夜のことを笑い飛ばしたいのだ。
最後に、ライアンのお気に入り映画のタイトルをご紹介して、本稿の結びとしたい。彼が絶賛しているのはまさかのインド映画。タイトルは『きっと、うまくいく』。かのスピルバーグが「大好きな作品」と語るこの映画は、僕も大好きだ。そして、このタイトルこそ、すべてのヤクルトファンに、そしてライアン自身に贈りたいフレーズなのである。なぜなら、ライアン小川――君の名は希望なのだから。
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