靴底で踏んだ「ぐにゃっとした異物の正体」は…

 いくつもの死体をまたいで歩いていく。甘酸っぱい吐いた時の臭いがする。空気も生暖かく、尾根全体を覆っている。靴底にぐにゃとした感触がある。土まみれの内臓を踏んだらしい。機体後部が滑り落ちていったスゲノ沢が遠くに見える。とてもそこまで往復する気力はない。

 記者の顔色を見ると無表情でありながら、なんとも形容できないような表情をしている。放心してはいないが、心底、精神的に動揺している。「何も考えられない」というか、頭が真っ白になっている。時間が止まったような感じがする。「百聞は一見に如かず」ではあるが、とても理性的、客観的に全容を把握することなどできない。記者同士の会話もなかった。

 少し離れた岩場に曹長らしき自衛官が弁当で食事をしていた。「よく食べられるなぁ」と思いながら、こちらも持参してきたトマトをかじった。何か腹に入れると食欲を感じるようになってきた。

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 下山を考えると食べないとバテてしまう。気分転換を兼ねて「飯を食べて休憩しよう」といい、何もない尾根の上部に座り、堀川さんが握ってくれた握り飯を秩父山系を見ながら食べた。山で握り飯はうまいが、味など感じない。

 向かい側に、123便の機体をこすって樹林が折れて空白のようになったところがあった。後日、「U字溝」と名付けられた。その下方に水平尾翼が沢に落ちていたという。下山も5時間半かかった。下山中は現場の悲惨さばかりを考えていたので、下山道については今もまったく覚えていない。ただ、誰もが黙々と下に向かってひたすら歩いた。

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