春季キャンプ中に見せた“熱い応援”
ある場面が強く印象に残っている。Twitterで発信された春季キャンプでの動画だ。打撃練習の一環で、ロングティーを各自が打ち込む。箱一杯のボールを前に必死に柵越えを放とうとする選手の傍で、奥村が声を張り上げるのだ。
「一球集中!!」
へとへとに疲れた廣岡大志の傍で、「休んでいいから! 絶対諦めたらあかん!」と大声をかける。声に応えるように、渾身の力を振り絞った廣岡が柵越えを放つ。雄平にも、荒木貴裕の傍でも、大声で応援する奥村展征。
「荒木さんの力が必要ですー!!」
コーチや観客から笑いも起こるが、たとえパフォーマンスであろうと、熱い男に熱く応援されて、誰が手を抜けるものか。諦める選手がどこにいようか。
奥村の声には力がある。その声を聞いて諦める者などいない。選手もファンも。
あれ以来、試合でどんなに点を取られて負けていようと、もう駄目だと思う前に、脳裏に声が鳴り響く。
「絶対諦めたらあかん!!」
諦めない心を体現するように、奥村が9回2死からヒットを打つ姿を見た。気迫のヘッドスライディングも何度も見た。奥村の声は、チームを、ファンを鼓舞し続ける。96敗シーズンの昨季、奥村、山崎、廣岡ら若手が育ってきたことは、未来へ繋がる希望だった。敗戦続きでともすれば凍えてしまいそうな心に、細々と火を灯し続けてくれていたのは、奥村の熱い声と熱いプレイだった。励まされたたくさんのファンが、今も奥村を神宮で待っている。
スワローズにもやがて世代交代の波が来るだろう。チームはまた低迷するかもしれない。だが、育ち始めた芽は、一気に花開く可能性も秘めている。大砲候補の廣岡大志、村上宗隆。俊足好打の山崎晃大朗。期待の高卒投手たち、寺島成輝、梅野雄吾、高橋奎二。次世代には楽しみな個性が揃っている。さて彼らの中心になるようなキャプテンシーのある選手は誰か。奥村ほど、ファンも含めたチームに気を配り、人を惹き付け、盛り上げられる選手がいるだろうか。今は技術も成績も至らないが、いずれは青木宣親のように、プレイでもメンタルでも言葉でも皆を引っ張る選手になれる。そう思えるのだ。
光り輝く次世代の星たちの真ん中に、太陽のように明るく強い、奥村展征を置きたい。それがしっくり来ると思うのは、きっと私だけではないだろう。
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