なんでそもそも「犬」だったんですか?

麻生 私も毎回ものすごく緊張して現場に入っていましたよ(笑)。オダギリさんとは友人としても仲がいい分、裏切りたくないというか、期待以上に応えたいという気負いも大きかったし、毎回すごいプレッシャーでした。でも、なんでそもそも「犬」だったんですか? 映画監督デビュー作と全然違うもんね。

©「THEオリバーな犬、(Gosh!!)このヤロウ MOVIE」製作委員会

オダギリ 『ある船頭の話』(19年)は、自分にとって長編初監督作品だったから、失敗が許されないじゃない? 何が成功で何が失敗かは、それぞれの価値観なんだけど。自分的に世界に胸を張れる作品にしたかったんだよね。ありがたいことに、第76回ベネチア国際映画祭で「ベニス・デイズ」部門に選出していただいて、自分の映画作りが認めてもらえた気になったわけ。

 じゃあ次の作品は何を作るべきなのか、と考えた時に、なぜか全部壊したくなったんだよね。せっかくベネチアから頂いた栄光のようなものも全部、自分で台無しにしてしまおう、みたいな気持ちが大きくなって……。それで、とことん真逆のコメディーを、しかもテレビドラマで作ろうと思ったのが「オリバー」だったんだよね。

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麻生 ほんと、らしいと言うか……。そういうの、好きだよね~(笑)。それにしても、「着ぐるみ」という発想はどこから生まれたの?

オダギリ いや何かさ、もうやれる役がないじゃない? やりたいと思う役がさあ……。

麻生 ええっ。やりたい役がもう着ぐるみの犬しかないってこと?(笑)

オダギリ「いまやりたい役ってある?」 麻生「……ない」

オダギリ いや、着ぐるみをやりたいんじゃないんだけど、そもそも「やりたいと思う役」なんてないよね、俳優には。麻生さんはいまやりたい役ってある?

麻生 ……ない。私もよく聞かれるけど、やりたい役って、正直ないから、まだやったことのない「医者」とか答えたりするけど、本当は、特にやりたい役はありません(笑)。

麻生久美子さん 撮影:山元茂樹

オダギリ だよね(笑)。それで「やったことのない役」を考えると、もう着ぐるみくらいしかないんだよ(笑)。でも着ぐるみなんだけど、どんなにふざけた設定にしても、「実力のある俳優を集めて、こだわり抜いた世界観を作れたらちゃんとかっこいいものができる」という確信があったので、そこは自信を持って突き進んだよね。