大友啓史作品の中でも破格の力作

 そして作品の核心が噴き出すのはコザ暴動の夜。幻影のオンちゃんに導かれ、グスクは嘉手納基地へと足を踏み入れ、銃を構えるレイと対峙する。ここで交わされる思想的な対話は映画のハイライト。暴力革命を訴えるレイに対し、グスクは「殺されたら殺し返すのか?」と問いかける。そのやりとりは理性と情念のせめぎ合いであり、やがてオンちゃんの「撃ち返したら戦争やあらに!」という記憶が、静かに挿入される。

©2025「宝島」製作委員会

 イノセントな青春の日々を起点とする冒険譚とも呼べる今作が描くのは、負の連鎖を断ち切ること。怒りや悲しみが渦巻く世界で、それでも希望を手放さない姿勢は、大友作品に通底するテーマだ。『龍馬伝』(10年)や『レジェンド&バタフライ』(23年)にも通じる寓意がここにある。グスクの「でもよ、俺は諦めんよ」という言葉が、未来への道しるべとなる。

©2025「宝島」製作委員会
©2025「宝島」製作委員会

 戦火が今も世界を覆う中、2025年に届けられた『宝島』は、まさに現代の映画だ。死者の声に耳を傾け、生者が命を繋ぐ――その営みは、沖縄のマジックリアリズムとも言える幻想性と土着性を融合させ、映像的にも魅力に満ちている。オンちゃんの失踪というミステリー要素も巧みに絡み、物語に深みを与える。大友啓史作品の中でも破格の力作であり、現時点での集大成や到達点と呼ぶにふさわしい堂々たる一作だ。

もり・なおと 1971年、和歌山県生まれ。映画評論家。著書に『シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~』、編著に『21世紀/シネマX』『日本発 映画ゼロ世代』『ゼロ年代+の映画』などがある。YouTube『活弁シネマ倶楽部』ではMCを担当。

INTRODUCTION

戦後の沖縄を舞台に、埋もれた史実に光を当て、直木賞、山田風太郎賞を受賞した真藤順丈の小説『宝島』(講談社文庫)を実写映画化。混沌と暴力に満ちた時代を命がけで駆け抜けた「戦果アギヤー」の姿を通じ、誰も描かなかった沖縄、誰も知らない空白の20年、そして戦争に翻弄された人々の姿を圧倒的熱量と壮大なスケールで描く。監督は『レジェンド&バタフライ』(23年)などを手がけた大友啓史。主演を妻夫木聡が務め、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太ほか、日本映画界を代表する俳優陣が顔をそろえる。

 

STORY

終戦直後の沖縄に米軍から奪った物資を住民に分け与える「戦果アギヤー」と呼ばれる若者たちがいた。リーダーのオン(永山瑛太)がある夜の襲撃で〝予定外の戦果〟を手に入れ、突然消息を絶つ。残されたグスク(妻夫木聡)は刑事、ヤマコ(広瀬すず)は教師、レイ(窪田正孝)はヤクザとなって、それぞれの道を歩む。しかし、アメリカに支配され、本土からも見捨てられた現実に怒りを募らせ、ある事件を契機に彼らの感情が爆発。一方でオンを追って米軍が動き出す。20年の時を経て明かされる衝撃の真実とは——。

 

STAFF & CAST

監督:大友啓史/原作:真藤順丈『宝島』(講談社文庫)/出演:妻夫木聡、広瀬すず、窪田正孝、永山瑛太/2025年/日本/191分/配給:東映、ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント©真藤順丈/講談社 ©2025「宝島」製作委員会

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