1952年、FEN(在日米軍ラジオ)の放送を介して海の向こうの洋楽が届く沖縄。米軍基地のフェンスを越え、疾走する孤児たち――“戦果アギヤー”と呼ばれる義賊の若者たちの姿が、物語の幕を切って落とす。語り部でもある主人公グスク(妻夫木聡)の視点から描かれる年代記形式の映画『宝島』は、まるでブラジル映画『シティ・オブ・ゴッド』(02年)を思わせる熱量で、約20年の物語を約3時間で一気に駆け抜ける。

©2025「宝島」製作委員会

史実と記録に耳を傾け、沖縄の戦後を生きる

 原作は直木賞などに輝く真藤順丈の傑作小説。監督の大友啓史は、かつてNHKの朝ドラ『ちゅらさん』(01年)で返還後の沖縄を優しく描いたが、今回はその前史に深く踏み込む。原作者の真藤をはじめ、沖縄出身ではない作り手たちが中心となったこの作品は、“他者を理解する”という姿勢そのものがテーマだ。史実と記録に耳を傾け、想像力を最大限に働かせて沖縄の戦後を生きる――その営みが、観客との対話を生むだろう。

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 物語の軸は“オンちゃん”(永山瑛太)という不在の英雄をめぐる群像劇。グスクは刑事に、ヤマコ(広瀬すず)は教師として市民運動に身を投じ、レイ(窪田正孝)はヤクザから過激派へと変貌する。それぞれの道が交差する中、グスクとベテラン刑事・徳尚(塚本晋也)のバディ感は、黒澤明の『野良犬』(49年)を彷彿とさせる。筆者の脳裏には、塚本が監督した『野火』(15年)や『ほかげ』(23年)の印象も重なった。今作は、大友啓史の作家性が際立つ“個人映画”としても強烈な印象を残す。

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