太平洋戦争終結から77年目の夏を迎えた日本。戦争体験者が年々減少し、当時の記憶・記録をいかに継承していくのかは、いまや社会的な課題だ。

 そんななか、戦前~戦後の貴重な白黒写真約350枚を、AI技術と人の手によりカラー化し、まとめた『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』(光文社新書)が幅広い世代から好評を博し、6万部にのぼる売上を記録している。

マーシャル諸島の日本兵たち

「戦争体験者が0人になる未来が見えてきているなかで、戦争体験をどう伝えていけばよいのかという課題意識がありました。とはいえ、私と同世代の20~30代の人たちからすれば、戦争ははるか昔に終わったことなので、リアリティを持って考えるのはなかなか難しいんですよね」(担当編集者の髙橋恒星さん)

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「そう考えていた際に、乗り鉄であり、撮り鉄でもあったJ・ウォーリー・ヒギンズ氏が、カラーフィルムで収めていた日本の風景写真をまとめた『秘蔵カラー写真で味わう60年前の東京・日本』(光文社新書)のような新書がつくれないかと思ったんです。

 その折に、本書の著者である渡邉英徳先生と庭田杏珠さんによる「記憶の解凍」というカラー化の活動を知り、これだ!と直感しました。

 戦前・戦後の生活風景、戦地のリアルな光景をカラーの写真でまとめられれば、『写真に写っている人は実際にこんな土地でこんな風に暮らしていたんだ』というところから、戦争の諸問題について考えてもらえるのではないか、という発想でしたね」(同前)

 
日系人強制収容所で体操をする少女 Ansel Adams撮影

AIだけでなく人力の採色も行ったワケ

 企画時の想定通り、発売後は「カラー写真になったことで“現在”と地続きに“当時”を感じられる」と話題を呼んだ。しかし、保管状態も千差万別な白黒写真をカラー化する作業は一筋縄ではいかなかった。

「ものによってピンキリではあるんですが、『パッと見は良いんだけど、細かい部分の色の塗られ方がおかしいな』とか『全体の色調がなんだか変だな』といったものが出てくることがよくありました。なので、リアルに仕上げるために人間の手作業が必要だったんです。

 担当編集としては『AI“が”カラー化した』という方が注目が集まりやすいだろうという想定もありましたが、話題性を優先させて、正しい色ではない写真をそのまま使ってしまうと、誤った記録・記憶を固定化させることになりかねません。なので、タイトルは『AI“と”カラー化した~~』としたんです。

 そのため、ほとんどの写真は、写真を提供してくださった方と著者の間で何度も話し合って調整しています。“歴史を語り継ぐ”という意味でも、それは必要不可欠な作業でした」(同前)

 高いクオリティでカラー化された、戦前〜戦後の貴重写真が多数収録されている同書。発売後は売上部数以上に数多くの反響が寄せられ続けているという。

2020年7月発売。現在6刷、6万部(電子含む)

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