避難所の人たちはそこで何日も生活
「イスに座っていると脚に下りた血液を心臓に戻すには万有引力に逆らって持ち上げていく必要があります。脚の静脈には一度上がった血液が下がってこないようにするため、要所、要所に“弁”があって逆流を防いでいます。ところが、暑さで体内の水分量が減ると血液がドロドロになって上に上がりにくくなる。弁も機能不全に陥りやすくなり、下で淀んでいるうちに血栓ができてしまうのです」
そこで問題になるのが、避難所に身を寄せている人たちだ。
飛行機や新幹線なら、数時間から長くても十数時間で解放される。そんな短時間でも血栓はできるというのに、避難所の人たちはそこで何日も生活を送っているのだ。
まして、エアコンのきいている飛行機や新幹線と違って、避難所の多くは暑さとの戦いを強いられる。血栓ができないほうがおかしい環境なのだ。
「今年の異常な暑さは、体の水分を知らないうちに蒸発させています。そんな中にあって、冷房のない体育館の中は“暑熱環境”といわれる過酷な状況。何もしなければ確実に水分不足を引き起こします。
平常時であれば、高齢者の中には水分の過剰摂取が心臓に負担をかけるケースもありますが、少なくとも今、避難所で生活を送っている人は、水分不足が基本となっている――と考えるべきです」
命を守るために、水分補給を
もう一つ、避難所の人たちの血栓のリスクを高めているのが「トイレ事情」だ。
トイレの設置台数の不足と水不足を理由に、トイレに行く回数を減らそうとして水分摂取に及び腰になる人は少なくない。
しかし小泉医師は言う。
「命を守るために、水を飲むことを優先してほしい。特に高齢者は、若い人に比べて血管内に水分を保持する機能が低下しているので、より積極的に水分を補給する必要があります」
歩ける人は20~30分に一度は立って歩く。歩けない人は足首や膝をグルグル回す運動をする。
避難生活の中で入手は困難かもしれないが、弾性ストッキングといってふくらはぎを圧迫するストッキングがあり、これを装着すると血液の淀みの予防効果がある。手に入るならぜひ利用してほしい。
「エコノミークラス症候群を発症してしまったら、自分たちにできることはほぼないと考える方が賢明で、医療機関の早急な受診、あるいは救急車を呼ぶべきです」(小泉医師)
“自分たちにできることがほぼない状態”を引き起こさないためにも、予防に力を入れるべきなのだ。