夏休みや正月休みなど、旅行に出かける機会の増えるシーズンになるとメディアが取り上げる病態に「エコノミークラス症候群」がある。
記事の終わりは、「楽しい旅行を悲しい思い出に変えないために気を付けましょう」といった常套句で終わるのが一般的なのだが、近年は少し状況が違う。
地震や豪雨による災害で避難所生活を送る人たちが、この病気のリスクに晒されるのだ。
気付くのが遅れれば命を落とす危険性もある恐ろしい病気。
救急医療の専門家に対策を聞いた。
正式には「急性肺血栓塞栓症」という
長時間同じ姿勢でいることで全身の血液循環が滞り、体内の水分不足が重なることで血液が固まりやすくなる。そうしてできた血栓が肺動脈に詰まるのがエコノミークラス症候群だ。
飛行機のエコノミークラスの搭乗客に相次いで見られたことからこう呼ばれるようになったが、正式には「急性肺血栓塞栓症」という。
「脚の静脈でできた血栓が心臓を通って肺動脈に流れ込み、血管を塞いでしまう病気です。これによって肺に必要な血液が届かなくなると、血液に含まれる酸素が足りなくなるので、酸欠状態に陥ってしまうのです」
そう語るのは、杏林大学保健学部救命救急学科前教授で、現在は東京・杉並区にある「浜田山ファミリークリニック」院長として総合診療を中心に地域医療に取り組む小泉健雄医師。続けて解説してもらう。
「血栓が肺動脈に詰まると、息切れ、咳から始まり、呼吸困難、最悪の場合は心停止することもある。肺動脈のどこに詰まるかによって症状の出方も異なり、比較的細い血管なら軽傷で済むことがある半面、太い血管で詰まると短時間で死に至ることもあります」
確率として肺塞栓となることが多いが、理論的には脳や心臓の血管で血栓が詰まることもあり、その場合には脳梗塞や心筋梗塞となる。いずれにしても、命に関わる重大疾患であることに変わりはない。
「同じ姿勢」を「長時間」続けていると……
エコノミークラス症候群が疑われる状況で医療機関に搬送されると、どんな治療が行われるのか。
「“D-ダイマー”といって血栓ができていることを示す物質の量を血液検査で測定し、あわせて胸部CTなどで診断をします。肺塞栓があることが分かれば、酸素を投与するものの、これは効果が小さいので、ヘパリンという薬剤による抗凝固療法が優先されます。
しかし、こうした治療が功を奏さない、あるいは症状の進行が早くて重症度が高い場合は血管の中にカテーテルという管状の治療器具を挿入して血栓を取り除く“血管内治療”に踏み切ることもしばしば。さらに、それさえ困難な場合は、開胸手術で血栓を除去することもあります」(小泉医師)
命を救うためには、もはや一刻の猶予も許されない状況なのだ。
最大の原因は、長時間にわたって同じ姿勢を取り続けること。エコノミークラスは座席が狭いので体の可動範囲が小さいことからリスクが高いとされてはいるが、血栓が席種を選んでできるわけでもない。ファーストクラスでもグリーン車でも、「同じ姿勢」を「長時間」続けていれば、血栓のできる条件は整う。